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優れたプレゼンに隠された秘密のしかけ/ナンシー・デュアルテ

ナンシー・デュアルテさんが、現代における2つの優れたプレゼンである、マーティン・ルーサー・キングの『私には夢がある』と、スティーブ・ジョブズのiPhone披露時のプレゼンを分析。人々を動かす圧倒的なプレゼンをするための教訓を引き出しています。

(所要時間:約19分)

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動画の内容 (全文書き起こし)
優れたプレゼンに隠された秘密のしかけ/ナンシー・デュアルテ

この場に立てるのは大変光栄です 皆さんには世界を変える力があります 決まり文句として言うのではなく 皆さんには本当に世界を変える力があるんです

皆さん1人ひとりの中に 人類が知る 最も強力な装置があります アイデアです 1人の心から生まれた 1つのアイデアが 地を揺るがし 運動の火種となり 未来をも書き換えるのです

しかし自分の内に 留まっている限りアイデアは無力です 他の人たちが取り組めるよう表に出さないならアイデアは死んでしまいます

皆さんの中には 自分のアイデアを伝えようとしたけど受け入れられず 拒絶され 代わりに月並みなアイデアが採用されたという経験をした人もいるでしょう 2者の間の違いは伝え方です

もしアイデアを 人の心に響くよう伝えられたなら 変化が起こり 世界を変えられるのです

うちの家族では ヨーロッパの 古いポスターを集めていて マウイに行くたびに ポスターの専門店に寄って店主にポスターを見せてもらいます ポスターがいいのは 1つのアイデアを持ち そのアイデアを伝える 明快な視覚表現があるところです

マットレスみたいに大きなポスターで マットレスみたいに厚くはありませんが すごく大きいんです 店主はページをめくりながら ストーリーを聞かせてくれます ある時 子ども2人と一緒に 見せてもらっていて めくられたページの下から出てきたポスターに思わず顔を寄せ 言いかけました 「わぁ このポスター すごくいい!」 すると 子ども達が飛び上がって言ったんです 「あっ お母さんがいる」

ポスター

それがこのポスターです (笑)

「盛り上がろう!」と 叫んでいるかのようです

このポスターで気に入っているのは そのアイロニーです 1人の女が意気込んで戦場に向かい 旗を掲げ スワヴィートス印スパイスの 小さな箱を手に そのちっぽけなものの宣伝のために 自分の手足や命さえかけるとでもいうようです

だからこの小さなスワヴィートスの箱を プレゼンに差し替えたなら まさに気負い込んでいる私です プレゼンなんかに 気負い込むのが格好良くなかった昔から 私はプレゼンに気負い込んでいたんです

効果的に伝えるなら プレゼンには世界を変える力があると 本当に思っています 世界を変えるのは 難しいです 1つのアイデアを持つ1人の人間だけで できるわけではありません 広まらなければ アイデアに力はないのです

他の人たちにも分かるよう アイデアが自分の外へと出て行く必要があります そしてアイデアが最も効果的に伝わるのは ストーリーによってです 何千年もの間 文字を持たない人々が 価値観や文化を損なうことなく 世代から世代へと語り継いで来たのです

ストーリーの構造には 不思議な力があって ストーリーが組み立てられると 聞いた人の中に取り込まれ 記憶に刻まれるようになるんです ストーリーに対して人は肉体的に反応します 胸が高まり 瞳が大きくなり 「背筋がぞっとしたよ」とか「みぞおちにグッときた」 などと言います ストーリーを聞くと 文字通り体が反応するのです

ストーリーが語られるのと 同じ舞台でありながら プレゼンとなるとまったく単調になってしまいます その理由を知りたいと思いました なぜストーリーを聞いているときは全身で夢中になって聞くのに プレゼンだと死んだようになってしまうのか? どうすればプレゼンにストーリーを取り込めるものか知りたいと思いました

私の仕事場には 文字通り 何百何千というプレゼンがあって 本当に酷いプレゼンがどういうものか よく知っています 私は映画や文学を研究し いったい何が起きていて どうしてそうなってしまうのか 探ろうと思いました そうして発見した いくつかのことと 辿り着いた あるプレゼン形式について お話ししたいと思います

当然アリストテレスから 始めるべきでしょう 彼は序盤 中盤 終盤という 三幕構成を考え 詩や修辞法を研究しました プレゼンの多くは この最もシンプルな形式すら持っていません 英雄の原型へと 研究を進めた時 「そうだ プレゼンターは 物語の主人公なんだ 舞台に立つショーの花形なんだから」 と思いました

プレゼンターとして 自分を スターだと考えるのは たやすいことです でもすぐに この考えが間違っていることに気付きました アイデアを持っていたとしても それを後生大事にしまい込んでいたら どこに辿り着くこともなく 世界は変わりません だからプレゼンターは主人公ではなく 聴衆こそアイデアにとっての主人公なのです

ジョゼフ・キャンベルの 『英雄の旅』を読むと はじめの部分に非常に興味深い洞察があります 愛すべき主人公は 普通の生活をしていますが冒険へと引き込まれます いわば世界の均衡が崩れるのです 主人公は最初 抵抗しています「こんなの やりたいか分からないよ」そこに導き手となる人が現れ 普通の世界から特別な世界へと進む手助けをします それがプレゼンターの役割です 導き手です ルークではなくヨーダなんです

聴衆が今いるところから 新しい特別なアイデアへと進む手助けをする それがストーリーの力です 最もシンプルな構造がこの三部構成です 愛すべき主人公がいて 希望を抱き 困難に直面しますが 最終的には本当の姿が現れて変容を遂げる というのが基本的な構造です

しかしそれからグスタフ・フライタークの ピラミッドに出会いました 彼はこの形を 1863年に描きました 彼はドイツの劇作家で 五部構成を標榜していました 提示部 上昇展開 クライマックス 下降展開 それに大団円 つまりストーリーの落着です

私はこの形が好きです 形の話です ストーリーは弧を持ち 弧がその形です クラシック音楽では形の良さについて話しますが プレゼンに形があるとしたら それはどんな形だろうと思いました

偉大なコミュニケーターは 形をどう使うのか? そもそも形を使うのか? 忘れもしません ある土曜の朝のことです こういったことを 2年も研究し続けていて ふとある形を画きました そして思いました 「ああ もしこの形が本当なら まったく違う2つのプレゼン選んでも 当てはまるはずだわ」

当然の選択として マーティン・ルーサー・キングの 『私には夢がある』スティーブ・ジョブズの 2007年の iPhoneお披露目のプレゼンを選び 重ね合わせてみたところ ピッタリはまったんです 仕事場で驚きに打たれ 少し泣きさえしました 「これはすごい賜物だ」 と感じたからです

それがこの形です すごいプレゼンが 持つ形です 素晴らしいと思いません? (鼻をすする—笑) 泣いていました それを お見せしたいと思います 本当にビックリしますよ 始まりと中間と結末を 順に辿っていこうと思います 歴史上の偉大なコミュニケーター達は 演説にせよ何にせよ この形に従っています リンカーンのゲティスバーグ演説でさえ この形なんです

プレゼンの始で 何の話なのかを確立する必要があります 現状や 起きていることを示し それを あるべき姿と比較します そして そのギャップを可能な限り大きくします 現状で当たり前とされていることを 自分のアイデアの高みと対比する必要があります

過去はこう 現在はこう でも ほら 未来を見て こんな問題がある だけど それが解決されたところを考えてみて こんな障害がある さあ それを打ち破ろう このギャップを強調する必要があります

映画の中の誘発的な出来事のようなものです 観客は突然目の前に現れるシーンに対して思います 「これを受け入れて 話に付き合うべきか?」プレゼンの以降の部分で それを補強してやる必要があります

だから中間部では 現状と理想の間を行ったり来たりします ここでやろうとしているのは 現状の異常さや醜さを示し 自分のアイデアが実現された未来へと引き込むということです 世界を変えようとするとき 人々は抵抗します 彼らは歓迎せず 現状の世界に居続けようとします だから抵抗に遭う ことになります それが行ったり来たりする 必要がある理由です

ヨットと一緒です 風上に向かって帆走する時は 風の抵抗があり 船を左右に切り返す必要があります そうやって風を捉えるんです 帆走するときには 自分に向かってくる抵抗を捉えなければなりません 面白いことに 風を正しく捉えられたなら 船は風よりも速く進むのです 一種の物理現象です 現状と理想の間で 抵抗させることによって 人々を自分のアイデアへと より早く導くことができるんです

現状と あるべき姿の間を行き来したあと 最後の折り返し点は行動の呼びかけで これはすべてのプレゼンが最後に持つべきものです 自分のアイデアが実現された ユートピアとして 世界を 新たな希望の中に描き出すんです みんなが力を合わせ 大きな問題を解決したときの世界の姿です

それを結末として 詩的で劇的に見せる必要があります これを発見した時 「分析ツールに使えるかも」 と思いました そして いろんなスピーチの文字起こしをして どれだけ当てはまるものか やってみました その例をお見せしましょう

私が最初に試した 2人です スティーブ・ジョブズです 世界をすっかり変えました パーソナルコンピュータの世界を変え 音楽業界を変え 今度はモバイル業界を変えようとしています 確かに世界を変えました そしてこれが 2007年の iPhoneお披露目の際のスピーチの形です

90分のプレゼンで ご覧のように 現状から始めて 行き来を繰り返し あるべき姿で終わっています 拡大してみましょう

白い線は彼が 話している部分です 緑色はビデオを見せている部分です 変化をつけています オレンジ色はデモの部分 ずっと1人でしゃべり続けているわけではありません これらの線がそれを表しています それから最後の方の青い線は ゲスト・スピーカーです

ここが面白いところですが この刻み目は 聴衆を笑わせているところです こちらの刻み目は 拍手が起きているところ みんな全身で参加していて ジョブズの言ったことに体を使って反応しています これは素晴らしいことです 聴衆の心を掴んでいるということだからです

彼はあるべき姿の話を 「今日は私が2年半待ち望んでいた日です」と始めます だから彼にすれば 2年以上も前から知っている製品の話をしているわけです 彼にとっては新しいものではありません しかしここで彼は 驚いて見せるのです 自分自身の製品にです

聴衆が笑い拍手する以上に 彼は自らに感動しています 「これすごいと思いません? とてもきれいでしょう?」彼は聴衆に感じて欲しいことの お手本を示しているのです 聴衆に特別な感じを持つよう促しているわけです 彼はあるべき姿の話を始めます「時折 画期的な製品が現れては すべてを変えます」そうして自分の新製品について話し出します

最初のうち iPhoneのスイッチは切られたままです スイッチを入れるまで 随分 間があるのが分かります 彼は行き来を繰り返しています 「これが新しい携帯で これが最低の競合製品」 「これが新しい携帯で これが最低の競合製品」 そして みんなが記憶にとどめる瞬間がここで訪れます

ジョブズがiPhoneのスイッチを入れ 観客は初めて画面がスクロールするのを見ます 空気が吸い出される音が聞こえそうです 会場全体が息をのむのを 感じられるでしょう 彼は誰もの記憶に残る瞬間を作り出しているのです

このモデルを見ていくと 青い部分が現れます 別のスピーカーが登場しているところです そして右下のところで線が途切れています スライドのリモコンが故障してしまったためです 彼はどうしたでしょう? 盛り上がった空気を壊したくはありません それで彼は個人的な話をします テクノロジーがうまく機能しなかった時にです コミュニケーションの達人である彼は ストーリーによって聴衆の心をつなぎ止めるのです

プレゼンは右上のところ 新たな喜びで終わります Appleは画期的な新製品を生み出し続けるという約束を彼は残します 「私が好きなウェイン・グレツキーの言葉があります“パックがあるところに行くんじゃない パックが行くところに行くんだ”Appleはその最初の日からそうあろうとし そうあり続けます」新たな希望で締めくくっているわけです

次にキング牧師を見てみましょう すごいビジョンを持った聖職者で 平等を勝ち取るために人生を捧げました これが『私には夢がある』の 演説の形です

現状から始め 現状とあるべき姿の間を行き来しているのが分かります そして最後は 誰もが知っている とても詩的な理想で終わります 少し引き延ばしてみましょうか ここでは 文字起こしした文を脇につけています 細かくて読めないと思いますが 改行は 彼が息をついて間があるところです

彼は南部の バプティスト派の牧師で語りに独特の リズムがあります 聞いていた人たちには 目新しいものでした このテキストをラベルで隠しましょう これを情報ツールとして使いたいからです 彼がどのように人々に語ったのか見ていきましょう

青いラベルは彼がレトリックとして繰り返しを使っている部分です 彼は同じ言葉やフレーズを何度も繰り返し みんなの記憶に残るようにしているのです 彼はまた沢山のメタファーや 視覚的な表現を使っています これは難しい概念をみんなが記憶し 理解できるようにするための方法です

彼は実際 情景を描き出すかのように言葉を使ったので みんな彼の言うことをイメージすることができました それから馴染み深い歌や 聖書の言葉を使っています 今見ているのは 前半部分です

それから政治家が人々に約束した言葉を沢山引用しています 最初の現状を述べる部分の終わりで 人々が本当に大きく喝采し歓声を上げます

彼はこう言ったのです

「アメリカは黒人に 不渡り小切手を渡してきた 残高不足と記され 突き返される小切手だ」

口座にお金のないのが どんなものか みんな知っています だから彼はみんなに馴染みのあるメタファーを使ったわけです でもみんなが本当に盛り上がって声を上げたのはこの部分です

「だから我々は その小切手を 引き替えに来た 我々に自由という富を与え 公正を保証する小切手を」

みんなここで喝采します 彼が現状とあるべき姿を 対比したところです

このモデルを さらに進んでいくと 行き来が激しいペースになっていきます 彼が行き来するごとに 聴衆も激してきます みんな興奮していて その高じた状態を維持するために そうしているわけです 彼は言います

「私には夢がある いつの日か この国が目を覚まし “すべての人間は平等に作られている” という建国の信条が 本当の意味で実現されるという夢だ」

彼はこのオレンジ色の文で 政治家や国家がしてきた約束を みんなに思い出させているのです それから彼は 行き来します

「私には夢がある いつの日か— 私には夢がある いつの日か— 私には夢がある いつの日か—」 そして最後が面白いものになっています

緑が4箇所あります それに沢山の青 つまり繰り返しが多用されています 繰り返しの感覚が とても強くなっています 緑は 歌や聖書の言葉を示しているところです 最初の緑の部分は イザヤ書からの引用で 2番目の緑は『マイ・カントリー・ ティズ・オブ・ジー』です

これはよく知られた歌で 当時の黒人には特に大切なものでした この歌の歌詞を変えて 守られずにいた約束への抗議の叫びとして 使っていたのです

3番目の緑は『マイ・カントリー・ティズ・ オブ・ジー』の1節です そして4番目の緑は 黒人霊歌です

「ついに自由だ! ついに自由だ! 神よ感謝します! ついに自由だ!」

彼がしたのは 聴衆の心に触れる ということです 大事な聖書の言葉や 怒りの叫びとして みんなが歌っていた歌を引っ張り出し それを聴衆と1つになって響き合うための道具として使ったのです

最後に 新しい理想の世界を描き出します 聴衆の心の中にある神聖なものを使ってです だから彼は偉大な人でした 彼には大きな夢がありました 皆さんも 大きな夢を持っていますね [あなたの写真をここに] (笑)

そのとても大きなアイデアを 自分の中から外に出す必要があります しかし私たちは困難に直面します 世界を変えるのは簡単ではなく大仕事です
彼がどんなだったか 家を爆破され レターオープナーで刺され 最後には命を落としました 自分が信じるもののために

多くの人は そこまでの犠牲を 強いられることはありませんが 基本的なストーリー構造のようなことが起こります 人生は得てしてそうなります 皆さんは愛すべき人物で 希望を抱いていますが 困難に直面し そこで止まってしまいます

「こんなアイデアがあるけどしまっておこう」

「拒絶されてしまった」

自分で自分のアイデアを壊してしまい 困難にぶつかって立ち止まるのです 格闘する中で自らを変えて 先へ進む道を選び 夢を抱き続けて 実現する代わりに

でも私にできるのなら 誰にだってできます 私は経済的にも感情的にも貧しい環境で育ちました 妹と初めてキャンプに行ったとき 虐められました 初めてのことではありませんが とても酷いものでした 両親はそれぞれ 3度結婚しています まったく混乱した状況で 両親は 喧嘩していない時にはアルコール依存症の居候を助けていました 両親も元はアルコール依存症だったからです

母は私が16の時に 家族を捨てました それで私が家族や兄弟の面倒を見ることになりました それから結婚しました ある人と出会い 恋に落ちたんです 大学には1年行きました 私はすべての聡明な若い女性がすべきことをしました 18歳で結婚する ということです

でも私は 自分にはもっとふさわしい人生があるはずだと思っていました そして人生のこの時点で選択をしたのです ああいったものに押し潰され アイデアを自分の中で枯らしてしまう ということだってあり得ました「人生は辛すぎる」 「世界なんて変えられやしない 難しすぎる」と

でも私は 自分の人生に 別なストーリーを選びました そう あれです (笑)

この場の人たちと同じように感じ あの小さなスワヴィートスの箱を掴んだのです そんな大それたことでは ありません 全世界を変えよう というのではありません でも自分の世界なら 変えられます 自分の人生なら 変えられます 自分の手の届く範囲なら 自分の領分なら 変えられます

皆さんにも そうすることをお勧めします なぜなら 未来とは 私たちが行く場所ではないからです 未来は私たちが作る場所なのです

どうもありがとうございました (拍手)

皆さんに祝福がありますように

ありがとう

引用元:TED

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