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民主主義は経済成長を抑圧するのか/ヤーシャン・ホアン

経済学者のヤーシャン・ホアン氏が、中国とインドを比較し、「民主主義は実はインドの成長を抑圧してきたのではないか」という大きな論点を掲げ、中国の独裁支配がいかにして驚異的な経済成長へ寄与してきたかを解説しています。

(所要時間:約19分)

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動画の内容 (全文書き起こし)
民主主義は経済成長を抑圧するのか

トピックは中国とインドの 経済成長についてです 民主主義が経済成長にとって プラスになるのかマイナスになるのか この問いについて 一緒に考えていきましょう 公平でないと思うでしょう なぜなら民主主義に対抗する事例として 二つの国を選んでいるからです ただ私はまさに正反対のことを しようとしています 民主主義に反対するというより 民主主義に賛同する立場で 経済の議論をしていきたいと思います

最初の問いはなぜ中国が インドより急速に経済成長を したかということです 過去30年間 GDPの成長率から見ると 中国はインドの2倍の速さで成長しています ここ5年間では 同程度の 経済成長をしています ただ過去30年で見ると 明らかに中国が インドより勝っています 上海とムンバイが それをはっきり表しています 上海の高層ビルを見てください これは浦東地区にあります インドの写真は ムンバイのダラビ地区の スラム街です この二つの写真から 言えることは 中国政府が法律を超越して 動けるということです 国の長期的利益に立って 計画ができます その過程で何百万の人を 立ち退かせるのは ごく一部の技術的手段に過ぎません 一方インドではそれができません 民衆の声を聞かなくてはならないからです 民衆の声に制限されます たとえマンモハン・シン首相が 了承してもです インドの金融系新聞の インタビューでシン首相は ムンバイを第2の上海にしたいと 述べています 彼はオックスフォードで教育された 人道主義の経済学者ですが 上海の高圧政策に 賛同しているのです

これを経済成長の上海モデルと呼びたい それは経済開発を促進するために 次のポイントを重要視します インフラ、空港 高速道路、橋などです それを実現させるための強い政府が必要です インフラを急ピッチで構築して運用していくには 個人の財産権を尊重していられないし 民衆の声に制約されてはいけない 特に土地資産に関して 国家所有が 必要であるからです このモデルからいえることは 民主主義は経済成長にとって プラスではなく マイナスになるということです ここで根本的な問いをかけます 経済成長にとってインフラは どの程度重要なのかということ これは重要な論点です 経済成長にとってインフラが 非常に重要であるとすれば 成長を加速させるため 強い政府が必要といえる 一般的に考えられるほど インフラが重要でないとするならば 強い政府をそれほど重要視しなくて いいでしょう

この問いを例証するために この二国を提示させてください 簡潔にするため 一方を国1 もう一方を国2とします 国1は国2に対し インフラ面で はっきりした利点があります 国1はより電話が普及しており より長い鉄道網があります あなたに尋ねるとします どちらが中国か どちらがインドなのかと そしてどちらが速く成長したかと インフラ面から考えれば 国1が中国に違いないと答えるでしょう 経済成長からいっても優勢であると そして国2がたぶんインドだと答えるでしょう

実は電話が多くある国は ソ連です これは1989年のデータです 電話に関して素晴しい統計の発表をした後 国は崩壊しました これはあまりに悲惨です 写真はフルシチョフです 1989年というと 彼はもはや ソ連を支配していませんでしたが これしかいい写真がありませんでした 電話、インフラは経済成長を 保証しません 電話があまり普及していない国2が 中国です 1989年から 過去20年間で 毎年2桁の成長を遂げています もし電話に関する事実以外 中国とソ連について知らなかったら 次の20年間での経済成長について 的確な予測は できなかったでしょう

長い鉄道網をもつ国1は 実はインドなのです 国2は中国です 二国のこの事実はあまり 知られてません もちろん今日では中国はインドと比べると インフラ面でかなり優勢です でも1990年代末までの 長い間 中国はインドと比べて インフラ面では劣ってました 発展途上国での 最も代表的な交通手段は 鉄道です だからイギリスはインドに多くの鉄道を造りました 国土は中国より小さくとも 1990年代末までは 中国より長い鉄道網をもっていたのです これではっきりいえます 1990年代後半以前に インドと比べて中国がなぜよかったか インフラ面では説明できないのです

実際に世界中の実績を見ると インフラは実は経済成長の結果だという 考え方がより正しいとわかります 経済が成長すると 政府はより資金を集め インフラに投資します インフラが経済成長の 要因ではないのです これはまさに中国の 経済成長のシナリオです よりダイレクトな問いをしてみましょう 民主主義は経済成長にマイナスなのか 二つの国を見てください 国Aと国B 国Aは1990年に 一人あたりのGDPが300ドル 対して国Bは 一人あたりのGDPは460ドルです 2008年までに 国Aは国Bを越えています 国Aは一人あたり700ドルです 対して国Bは一人あたり650ドルです 両方ともアジアの国です

もし質問するならば このアジアの国はどこか またどちらが民主主義の国かと聞きます あなたはこう主張するでしょう 国Aはたぶん中国で 国Bはインドだと 実際には国Aは 民主主義の国インドです 国Bはパキスタンです 長い間 軍国主義だった国です インドと中国の比較は とてもよくします 両国の人口が 同じくらいだからです でもインドとパキスタンの比較のほうが 実際には理にかなっています 両国は地理的に似ているし 複雑ですが共通の歴史をもちます この比較からすると 民主主義は経済成長の点からは かなりよく見えます

それでは経済学者はなぜ 独裁政権に傾倒するのでしょうか 東アジアモデルが理由の一つです 東アジアには 経済成長の成功事例があります 韓国、台湾 香港、シンガポールなどです 60年代や70年代 1980年代に 独裁政権によって経済が 支配されていた国もあります この考え方の問題点は まるで宝くじの 当選者しか見ていないということです 宝くじが当たったかと聞くと 全員当たったという すると宝くじ当選の確率は 100%だと 結論づけてしまう 宝くじを購入しても当たらなかった 落選者の所にわざわざ行って 聞くことはないので こうなってしまうのです

東アジアの成功した 独裁政権と同じくらい 失敗例もあります 韓国に対して北朝鮮は成功していません 台湾に対し毛沢東下の中国は成功していません ビルマも フィリピンも成功しませんでした 統計的な証拠を世界中で調べても 経済成長の面で 独裁政権が民主主義より機能したという 主張の根拠は 実はないのです それゆえ東アジアモデルは 選択バイアスが多くあります これは従属変数の選択問題として知られ 学生に避けるよういつも注意しています

それではなぜ中国が より速く成長したのでしょうか 文化大革命の話をしましょう 中国が狂っていたときです インディラ・ガンジー下のインドと 実績を比較しましょう 問いは中国とインドでは どちらが優れていたかということです 中国は文化大革命の最中でした 文化大革命のときであっても 一人あたりのGDP成長において 毎年平均約2.2%の差で 中国はインドを 結局のところ上回っていたのです 中国がおかしかったとき 中国全土がおかしかったときでも 文化大革命のマイナス面を 凌駕するような 経済成長にとってプラスの面が あったに違いありません この国の強みは 人的資本です 人的資本に他ならないのです

これは1990年代初期の 世界開発指数の指標データです 見つけられたもののうち最も早期のデータです 中国の大人の識字率は 77パーセントです 対してインドでは48パーセントです 中国の女性とインドの女性では 識字率の差が 特に顕著です 識字率の定義はまだ話していませんね 中国の識字能力の定義は 1500の漢字が 読み書きできることです インドの定義は 運用上の識字能力のことであり 広い意味の能力で どんな言語でもたまたま話している言語で 自分の名前を書ければいいのです 識字能力の観点から二国の格差は このデータ以上に 大きくあります 人間開発指数のような 他の情報源であっても この種のデータは 1970年代初期であっても 同じ格差が見られます 中国は人的資本の観点で インドに比べて かなり優勢でした

寿命がそのケースです 1965年に早くも 中国は寿命に関して大きな強みをもっていました 平均的に1965年に中国人であれば 平均的なインド人より 10年長く生きられたのです もし中国人かインド人か 選べたら 10年長く生きるために 中国人を選んだことでしょう もし1965年にこの決断をした場合 翌年に文化大革命が起きたので 良くない面もあります だからこの種の決断をするときは いつも慎重に考えなければなりません

もし国籍を選ぶことができない場合 インド人男性を希望することでしょう なぜならインド人男性は インド人女性に比べて 約2年平均寿命が長いからです これは極めて不自然な事象です このようなケースは 非常にまれです インドの社会では女性に対し 組織的な差別と偏りが あることを意味します よい知らせとして 2006年には 寿命に関して 男女間の格差がなくなっています 今日インド人女性は男性に対して 寿命でかなり優位に立っています インドは自然な状態に戻っています 男女共同参画に関しては インドはまだやるべきことが多いです

ここに二枚の写真があります 広東省の縫製工場で撮られたものと インドの縫製工場のものです 中国では全て女性です 中国の沿岸部の労働力のうち 60~80パーセントは女性です 一方インドは全て男性です フィナンシャルタイムズは 「織物で中国を追い越そうとしているインド」 という見出しで インドの縫製工場の写真を載せています この二枚の写真からすると 当分中国を追い越すことはありません 他の東アジアの国に目を配れば 女性は非常に重要な役割をしています 経済成長の離陸期において 東アジアの 製造業の奇跡においてです インドが中国に追いつくには まだずっと時間がかかります

さて論点は 中国の政治システムはどうかということです 人的資本について語られますし 教育と公衆衛生についても語られます 政治システムはどうでしょうか 一党独裁体制が中国の経済成長を 加速させたというのは本当でしょうか 答えはもう少し微妙です 政治システムの 静的なものと動的なものを どのように区別するかによります 静的には中国は一党独裁体制で 独裁政治であるというのは言うまでもありません 動的には独裁政治からより民主主義の方向へ 移行してきました 変化を説明するとき たとえば経済成長 経済成長とは変化のことであり 変化を説明するとき 不変のものではなく 変化してきたものを引用するでしょう 固定効果が変化を説明できることもありますが 変化するものとの相互作用でしか 説明することしかできません

政治面での変化でいえば 村落選挙を導入しました 個人事業主に対する保証を強めてきましたし 長期間の土地使用権の保証も 強くしてきました 地方では財政改革も行われています 起業家育成事業も行われているのです 私からすれば政治の変化のスピードは 遅くて緩やかすぎです 私の考えでは この国は大きな変化に直面します なぜなら政治改革は それほど速く深く進行していないからです それでもなお 政治システムはより自由主義 より民主主義の方向へ進んできました

インドにも動的な視点を適用できます 実際インドでも 年に1、2パーセントほどしか成長しない ヒンドゥ的成長のとき 民主主義とは程遠いものでした インディラ・ガンジーが1975年に 非常事態令を出したとき インド政府は全てのテレビ局を 所有し運営していました あまり知られていませんが 1990年代にインドは 経済改革だけでなく 政治改革にも着手していました 村の自治制度導入や メディアの民営化 情報公開です それゆえ方向性という点では 中国もインドも両方 動的な視点で見ることができます

なぜ多くの人がインドを いまだに成長に失敗していると思うのでしょう それは いつも中国と比較するからです 中国は経済成長の面では スーパースターです もしあなたがNBAの選手で いつもマイケル・ジョーダンと比較されていたら あなたはさえないでしょう でもあなたが だめなバスケットボール選手 というわけではないのです スーパースターとの比較は 間違ったベンチマークです 実際にインドを他の 平均的な発展途上国と比較すると 最近の著しい成長の 前でさえも 今は8から9パーセントの成長をしていますが その前でも インドは新興国の中で 経済成長が4番目にランクされています これは素晴しい記録です

未来について考えてみましょう ドラゴンと象を比較して どちらの国が成長に勢いがあるか 私はまだ中国だと思います 社会資本 公衆衛生 平等主義の感覚といった 優れた社会の基礎は インドにはまだないからです それでもインドには勢いがあると思います 基礎部分はまだ改善中ですが 政府は基礎教育と 基礎衛生に投資してきました 政府はもっと投資すべきと思っています やはり動く方向としては 正しい方向を向いています インドには経済成長にとって 妥当な政治体制があります 一方で中国はまだ政治改革に 悪戦苦闘しています

中国が成長を維持するためには 政治改革が必須だと思っています 経済成長の恩恵を広く共有するためにも 政治改革はとても重要です それが起こるかどうかわかりませんが 私は楽観主義者ですので 願わくば今から5年くらいで 政治改革が中国で起こったと TEDグローバルで報告したいです

ご静聴 ありがとうございました

引用元:TED

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