2014年12月30日 科学・技術 タグ: TED, 医療, 抗生物質
迫り来る抗生物質の危機/ラマナン・ラクシュミーナラヤン
ラマナン・ラクシュミーナラヤン氏が、命に関わらない季節性インフルエンザの様な病気や、鶏肉産業で肉の値段を下げる為、鶏の飼育などに抗生物質が濫用された結果、バクテリアが次第に耐性を持ち始めている現実を警告。抗生物質のあり方や、限りある資源の使い方を考え直すべきだと呼びかけています。
(所要時間:約15分)
動画の内容 (全文書き起こし)
史上初めて抗生物質で治療を受けた患者はオックスフォードの警官でした 休日に庭仕事をしている時 バラの刺で引っ掻き その小さな引っ搔き傷が化膿してしまいました それから2.3日で 頭が膿瘍で腫れ上がり 現に目は化膿して摘出しなくてはならない程でした
1941年2月に この気の毒な男性は瀕死の状態でした その時 彼はオックスフォードのラドクリフ診療所に入院していて 幸運なことに そこにでは ハワード・フローリーが率いる 小さな医師チームが 僅かな量ですがペニシリンを合成することに成功していました ペニシリンは アレキサンダー・フレミングによって その12年前に発見されていましたが 人の治療には使われた事がなかったので 本当に効くものかどうか 誰も分かりませんでした もし不純物が多く含まれていたら 患者を死なせてしまいます しかしフォーリーとそのチームは 使わなければならないなら助かる望みのない人に使おうと思っていました
それでアルバート・アレキサンダー そのオックスフォードの警察官にペニシリンを投与しました すると24時間内に回復し出したのです 熱は下がり 食欲は戻り 2日目には随分と良くなりました ペニシリンが無くなりかけたので 彼の尿を向かいの研究所に運び 尿からペニシリンを再合成し 彼に投与したのです するとそれが効いて 4日間 回復に向かっていました 奇跡的でした 5日目にペンニシリンがなくなり 気の毒な事に彼は亡くなりました
残念な終わり方でしたが 1940年代初期 敗血症で瀕死だった この子供が ペニシリン治療で ほんの6日で回復したように 何百万人もの人々が この特効薬ペニシリンのお陰で回復したのです 何百万人もの命が救われて来て 世界の健康は変貌を遂げました
抗生物質は この様な患者に使われて来ましたが かなり濫用されもして ただの風邪やインフルエンザのような 抗生物質に反応しない病気の治療に使われたり 治療量以下の量で 頻繁に食肉の値段を僅かに下げる為に 鶏や豚に投与されたのです 随分と抗生物質を 病気でもない家畜に 成長促進の為に使ってきました
これでどうなったかと言うと 世界中の抗生物質の大量使用はバクテリアに大きな選択圧を加え その耐性が問題となっています なぜなら そうやって耐性菌だけが選択されてきたからです
こういう事は新聞などで分かっている事で どの雑誌にも載っていますが この重大さを本当に皆様に理解してほしいのです これは深刻な事です
次はアシネトバクター菌が持つ カルバペネム耐性についてです アシネトバクターは厄介な院内感染菌で まさに最強クラスの抗生物質カルバペネムを この菌に対して使います そして1999年には この様な この耐性のパターンが見られます USの殆どの地域では約10%以下です ビデオでその変化をご覧下さい
皆様がどこにお住まいか 分かりませんが どこであろうと 今ではその状況は 1999年よりずっと悪化しているでしょう それが抗生物質の耐性問題なのです 世界的な問題で 国の貧富を問わず どこでも影響を受けてます その根本的原因となるものは 医療問題だけではないのです
もし医師に抗生物質を濫用しないよう 患者に抗生物質を医師に要求しない様に と指導したなら 多分これは問題ではなくなり 薬品会社も もっと抗生物質の開発に 精を出すべきかもしれません これで分かる事は抗生物質は基本的に他の薬とは違うと言う事です
つまり使い方を間違えば また使うなら 自分だけでなく他の人たちも影響を受け それは私が通勤に車を使ったり 何処かに行くのに飛行機を使ったりして 地球温暖化に加担して あらゆる所で人々を犠牲にし 必ずしもその犠牲を私は念頭に入れている訳ではない というのに似ています これは公共問題だと 経済学者は言うでしょう そして抗生物質のケースで遭遇する問題も まさにその公共問題なのです 我々は— 個人、患者 病院、全医療システムを含め— 抗生物質の間違った使用法で人々が 犠牲になっている事など考慮に入れていません
それは誰もが知る もう1つの分野の問題と似ています 燃料使用やエネルギー消費 両方ともエネルギーを消耗するだけでなく 地域社会の環境汚染と 気候変動につながります 典型的なエネルギーの問題対処法には 2つの方法があります 1つは今ある石油を もっと上手に活用すること これは既存の抗生物質を もっと上手に使う事と類似しています これにはいくつかの方法があり それについて後ほどお話しします もう1つの選択は「掘れ、もっと掘れ」で 抗生物質だと それは 新しい抗生物質を開発する事です
これらは別物ではなく 関連しています なぜなら 新しい油田に大きな投資をすると 石油節約の動機が薄れるように 抗生物質に関しても 同じことが起きます その逆のことも起きます もし抗生物質を正しく使ったなら 必ずしも新薬の開発に 投資しなくてもいいのです
もしこの2つは完全にバランスがとれているとお思いなら この事実を考えてみて下さい これが実際 現実に起きている事です その現実とは共進化です チーターとガゼルに 共進化の例が見られます チータは速く走るように 進化していなかったら 食べ物がなかったでしょうし ガゼルが速く走るように進化したのは 食べられないようにという為で これはバクテリアに対応する 我々のやり方と同じです 我々はチーターではなく ガゼルの方です このスピーチをしている間も バクテリアは子孫を増やし 選択と試行錯誤を 何度も繰り返すだけで 耐性をつけて行っています
その一方バクテリアの先手を 我々はどう打っているのでしょう 新薬開発の過程は 標的分子の探索 あらゆる臨床試験 それで薬が開発されたと思ったら 次はFDAの認可過程があります それら全てを通ると 我々はバクテリアの先手を取ろうとします
これは明らかに いつまでも続くゲームではなく 先手を打とうと 技術開発で勝利を収められるものでもありません 我々は共進化の速度を落とさなくてはなりません そして抗生物質の場合に於いても そのやり方を考えるのに エネルギー分野から拝借できる 役に立つアイデアがあるのです
例えばエネルギーの値段の 付け方を見てください 排ガス税を考えてみると 汚染の原因となるエネルギーを 使っている人に課しているわけです そのやり方を抗生物質にも応用して 抗生物質が適切に使用されているか 確かめることもできます
クリーンエネルギーの補助金が それ程汚染をしない 化石燃料ではない燃料に支払われているように 同じことが言え 抗生物質の使用から 遠のく必要があるのです しかし そう考えるなら 何が抗生物質の代わりになるのでしょうか 抗生物質の必要性を少なくするものなら 何でもうまく行くでしょう
それには院内感染コントロールや 特に季節性インフルエンザの予防接種も含まれています 米国を含む多くの国で おそらく一番 抗生物質が使われているのは 季節性インフルエンザに対してなので 予防接種は随分と貢献するでしょう
三番目のオプションは取引可能な システムを含んだものです これらはまだまだ遠い話の様ですが 感染症の多くの患者に 抗生物質が入手できないことがある現状を見ると 他の人々に使う抗生物質の一部を どうしても必要な人に 分配するシステムを 考えることができます 中には臨床上の必要性や 値段に基づいて 行うべきものもあるでしょうが 消費者の教育が 役に立つでしょう
抗生物質濫用の多くは 必ずしもそれと知りながら 行われている訳ではないので フィードバックの仕組みが 役に立つ事が分かっています それはエネルギーに於いてもそうです 人にピーク時に エネルギー使用量が多いことを知らせると 人々は使用を控えるようになります 同じ様な事が 抗生物質にもみられます
セイント・ルイスのある病院では その前月 使用した 抗生物質量の順に 外科医名のリストを張り出します これは純粋に情報をフィードバックする為で 晒し者にするためではなく 根本的に外科医に情報を与え 抗生物質の使い方を考え直してもらう為です
供給面に於いても 様々な事が出来ます ペニシリンの値段を見ると 一日が約10セントと かなり安い薬です それ以後 世に出た薬 リネゾリド、ダプトマイシンなどは 非常に高価です それで1日10セントに 慣れている世界では 1日180ドルは 大金に感じられます この高値が 物語っている事は もはや安価で効果のある抗生物質が 当然のごとく手に入るとは これからは考えるべきではなく 我々はもっと 抗生物質をもっと慎重に使用し また他のテクノロジーに目を向けるべき かもしれないという事です また他のテクノロジーに目を向けるべき かもしれないという事です
それは例えば ガソリンの値段が誘因となり 電気自動車の開発がすすむことと 同じ様な事です 薬の値段は重要な信号であり 注意を払わなくてはいけません しかし考えるべき事実があります 高額な抗生物質は 普通ではないのですが 1日あたりのある種の抗がん剤とは 比べものになりません 抗がん剤はほんの数ヶ月か1年だけの 延命効果しかないかもしれません 抗生物質は患者の命を救う可能性があります
これは大きく変革してくるでしょう そして それは不安な変化でもあります なぜならアメリカでも 世界でも 多くの場所では 1日に200ドルも 抗生物質に 支払うというのは 想像もできないからです これは考えなくてはなりません
それには安全装置的オプション 現在 研究が進んでいる 新しいテクノロジーがあります バクテリオファージ プロバイオティックス クオラムセンシング シンバイオティックスなどです これら全ては追求すべき これから役に立つ技術です 新しい抗生物質の値段が上がると これらは良いビジネスにもなるでしょう 市場がそれに反応する事は分かっています
現在 政府は新しい抗生物質の開発に対する 助成金の出し方を考慮しています しかし ここにチャレンジがあります 問題解決に対して浪費はしたくないのです 我々の望みは その販売や適切な使用法を奨励するような方法で 新しい抗生物質に投資出来ればと思います しかしそれは大きなチャレンジです
先の新テクノロジーに戻ります 有名な恐竜映画の1セリフですが 「自然は自ら回復の道を見つけるものだ」 とはこれらのテクノロジーが永久な 解決法とはならないかの様です 我々が忘れてはならない事は そのテクノロジーが何であろうと 自然は回復しようと なんらかの道を見出すという事です
これはバクテリアや抗生物質だけの問題にすぎないと思われるかもしれませんが 全く同様な問題が 他の分野にもあるのです
多剤耐性の結核は 南アフリカやインドでは深刻な問題です 何千人もの患者が亡くなっています なぜなら第二選択薬はとても高価で 時には効果さえありません こうして広範囲薬剤耐性結核菌を産み ウィルスも耐性を獲得します
農業の害虫、マラリヤ寄生虫 今 世界中が マラリア治療に唯一頼りにしている アルテミシニンに対する耐性が既に現れ始めており これが広がれば 世界中のマラリア治療に 使わなければならない 現在 安全で効果的な ただ1つの薬を 危険にさらす事となります
蚊も耐性を持ち始めています 子供のいる方は 頭ジラミの事はご存知でしょう ニューヨークにお住まいなら そこに多い問題トコジラミ これらも又全て耐性を持ち始めています 海の向こうのイギリスから例を持ってくると ネズミが毒に対し耐性を持ち始めています
これらの全てに共通する事は 我々は テクノロジーで この70、80、100年間 自然をコントロールするテクノロジーを 一瞬のうちに使い果たしてしまった ということです なぜなら自然淘汰と進化により 自然が元に戻ろうとする力に 我々は気づいていなかったからです
生物を制御する手段を どのように使うか これらの貴重な資源を どのように開発 導入するか 抗生物質の場合に関しては その使用方法をどのように奨励するか などの方法について 考え直す必要があります
今 我々は分岐点に立っています その1つの選択は 今のやり方を変える為に考え直して どう動機づけていくかをよく考える事です もう一方のオプションは 草の葉さえも 致命的武器となり得る世界なのです
ありがとうございました
(拍手)
引用元:TED




治る病気が治らない!? ~抗生物質クライシス~/NHK・クローズアップ現代
アトピー性皮膚炎 原因は細菌の異常増殖か
大切なのは「腸内微生物」だけではありません。私達が体内外に抱えている約1.5キロの微生物が大きく健康を左右していることが分かってきました。/ロブ・ナイト
物体ではなく、分子を印刷することができる3Dプリンターを開発中!将来は化学物質をインクとして、自分専用の薬を印刷することが可能になるかも/リー・クローニン
人間の顔認識システムって凄いなぁと思って調べていたら、脳の組織と心の関係についての神講演を見つけた
人間の脳と行動に影響を与えている腸内に住む微生物たち/エレイン・シャオ
あなたの脳はただの化学物質の袋ではない/デイビッド・アンダーソン
自ら学習するコンピュータの素晴らしくも物恐ろしい可能性/ジェレミー・ハワード
「統合失調症」と診断され、薬漬けとなり、治療法が見つからないまま放棄された私が、頭の中の“声”に耳を傾ける事で回復した長い道のり/エレノア・ロングデン
重症患者たちの「私は死ぬのでしょうか?」という質問に真実を答えるようにした経緯と、死を悟った人たちが見せる3つのパターンについて/マシュー・オライリー
投資においては財務データが素晴らしいだけでは不十分で、なぜ投資家が企業の環境、社会、ガバナンスの体制を見なければならないか?/「サステナビリティ投資の論理」
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薬剤研究のための画期的な資金調達法/ロジャー・スタイン
【福島の子どもの甲状腺がん問題】「チェルノブイリでは4~5年経ってから甲状腺ガンが出た」というのは嘘です。1年後から出てます/小出裕章(こいでひろあき)氏
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教育の死の谷を脱するには/ケン・ロビンソン
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