2015年9月3日 金融・経済 タグ: TED, ダン・アリエリー, 教育問題, 経済格差
「現在どれくらいの不平等があると思うか?」 「どれくらいの不平等が望ましいか?」 /ダン・アリエリー
行動経済学者のダン・アリエリー氏が、わたしたちは「富の不平等を望まない」一方で、その認識にはギャップがあり「現実を正しく認識していない」と指摘し、 これが社会正義に関わるような重い問題でも同様であると解説。不平等や、不平等がもたらすもの(健康、教育、妬み、犯罪率など)への認識をどう改めさせるべきか?と問いかけています。
(所要時間:約9分)
動画の内容(全文書き起こし)
人生 客観的でいられたら いろんな意味で いいですよね
ただ厄介なことに 私たちは 何事も 自らの色眼鏡を通して見てしまいます ビールみたいな 単純なものでさえそうです 何種類か ビールを テイスティングして 「濃さ」や「苦味」で 評価をしたとしましょう ビールの評価は きれいに ばらけるはずです
これを客観的にしたら どうでしょう? ビールの場合は とても簡単にできます ブラインド・テイスティングです 同じようにして 同じビールを味わっても 目隠しをしていると ちょっと様相が変わってきます ほとんどのビールが同じ評価になり 味の区別ができなくなります もちろん ギネスは例外です (笑)
生理機能についても 同じように考えられます 人間の期待が生体機能にもたらす効果は何でしょう?
例えば 鎮痛剤を売るのに 「高価な薬」と伝えた場合と 「安い薬」と伝えた場合とでは 「高価な薬」のほうが よく効きました なぜ 痛みが より和らいだかというと 期待することで 生理的効果に 違いが生まれるからです もちろん スポーツでも 主観が影響します 特定のチームのファンだったら そのチームの立場でしか ゲーム展開が 見られなくなりますよね
これらに共通しているのは 私たちが目にする世界は 先入観や期待感で 色付けされてしまうということです これが もっと重い問題― 社会正義に関わる問題だったら どうでしょう?
私のチームが取り上げたのは 「不平等」に対する見方 これをブラインド・テイスティング形式で 検証しました 具体的には 不平等に焦点を当て 大規模なアンケート調査を行い アメリカなど様々な国で 2つの質問をしました
「現在 どれくらいの 不平等があると思うか?」
「どれくらいの不平等が 望ましいか?」
まず1つ目の質問について 考えてみましょう アメリカにいる人を全員 最も貧しい人から 最も豊かな人まで 右から左へ並べるとします そして5つのグループに分けます 最も貧しい20% そして次の20% その次 その次 そして最富裕層の20%という具合にです そして 各グループに どれくらいの富が 集まっていると思うか 尋ねます
シンプルに 質問をこうしましょう 下の2つのグループ 最も貧しい40%には どれくらいの富があるでしょう? 少し時間を取って 数字を出してみてください 普段は考えませんからね ちょっと考えて 具体的な数字を用意してください よろしいですか?
多くのアメリカ人の答えは こうです 最下層20%には 全体の富の2.9% 次のグループには6.4% あわせて9%超です 次のグループには12% その次は20% そして最富裕層20%には 58%の富があると考えていました 皆さんの答えと 比べてみてください
さて 現実はどうでしょう? 現実は少し違います 最下層20%の持てる富は 全体の0.1% 次の20%は0.2% あわせて0.3%です その次が3.9% 11.3%と来て 最も豊かな層が84~85%の富を有します 現実と 私たちの認識には 大きな隔たりがあるのです
では 私たちが望む姿は どうでしょう? そもそも どうすれば分かるでしょうか?
これを調べるにあたり 私たちの理想を調べるにあたり 哲学者 ジョン・ロールズのことを 思い起こしました ジョン・ロールズは 公正な社会について こう考えていました “公正な社会とは その社会について すべてを知り尽くした上で どの立場であっても その一員になりたい社会である”と
美しい定義ですね 普通 裕福な人は 「富める者にはより多くの富を 貧しい者にはより少なく」と考え 貧しければ より平等を求めるものです でも ここで仮定している社会では あなたは どの立場になるか わかりませんから あらゆる場面を考えなければいけません ブラインド・テイスティングに少し似ています 決断するときには結果がどうなるか見えないからです ロールズはこれを 「無知のヴェール」と呼びました
さて 私たちは 新たにアメリカ人をたくさん集め 無知のヴェールの状態で 質問をしました 「これから ある国の一員になるとします どの立場になるかは分かりません どんな国ならいいと思いますか?」 こちらが その結果です 最初のグループ 最下層20%に どれくらいの富を希望したでしょう? 約10%の富の配分を求めました 次のグループには14% 21、22、32という結果でした
このときの被験者は 誰も完全な平等は望みませんでした 誰も 社会主義がすばらしいとは思わなかったようです どういうことでしょう? 私たちが持っているものに関して 現実と認識の間にはギャップがありますが 同じくらい大きなギャップが 私たちの考える理想と認識との間にもあるというわけです
ちなみに これらの質問は 富についてだけでなく ほかのことにも 当てはまります 私たちは 世界各地の人たちに さきほどの質問を投げかけましたが リベラル派、保守派にかかわらず 基本的に同じような答えが返ってきました 金持ち、貧乏人も同じ答えで 男性と女性も 公共ラジオNPR愛好者 フォーブズ誌の読者も同様でした イギリス、オーストラリア アメリカでも とても似通った回答を得ました
大学のいろんな学部でも 聞いてみました ハーバード大学の ほぼ全学部を訪ねました ハーバード・ビジネス・スクールでさえ 事実 富裕層をより豊かに 貧しい人はより貧しくという人は少数で この類似性は驚くべきものでした ハーバード・ビジネス・スクール出身の方もおられますよね
他のことについても 同じ質問をしてみました 社長の給料に対して 非熟練労働者の給料はどれくらいか 人々が考えている割合はこうです では どれくらいの割合が ふさわしいと考えるか 実際はどうか見てみましょう 現実はどうかというと それほど悪くはないでしょう? 赤と黄色の面積は それほど違いませんね でも実は これは同じ尺度で描いていないんです 実際は黄、青色の部分は 見えないくらい小さいんです
では 富がもたらす 他の影響はどうでしょう? 富は 財産だけの話ではないのです
こんなことも聞きました― 健康は? 医者にかかって薬がもらえるかは? 平均寿命は? 新生児の平均余命は? これらに対して 望ましいと思う配分とは? 若者の教育は? 高齢者の生涯学習は? わかったのは これら すべてに共通する結果ですが 誰も富の不平等を好まないということです
富の産物である不平等ですが 人々がさらに嫌がる不平等は他にもあります 例えば 健康や教育の不平等です さらに 行為主体者性の低い人 つまり 小さな子供や 赤ちゃんに起こる不平等の是正については 人は特に賛同しやすいことも分かりました 子供には自らの置かれた状況に責任がないと考えるからです
さて ここから 何が学べるでしょうか?
現実との間には2つの格差 「認識のギャップ」と 「期待のギャップ」があります 認識のギャップについて 私たちが探っているのは 人々をどう教育していくかです 不平等や 不平等がもたらすもの― 健康、教育、妬み、犯罪率など― それらへの認識をどう改めさせるかです
そして期待のギャップについては 自らが真に望むものへの考えを どう変えさせるかです ロールズの定義 ロールズ流の世界の見方 ブラインド・テイスティング方式は 思考から利己的な動機を消し去ってくれます もっと大きなスケールで より高い次元でそれを実行するには どうすればよいでしょう?
最後に「行動のギャップ」もあります これらに対して 実際に どう行動するかです 答えの一つとしてあげられるのは 自立していない小さな子どものことを 考えることです そのほうが やりやすいからです
今度 皆さんが ビールやワインを飲みに行くとき まずは考えてみてください 自らの経験のなかで 「現実」がどれで 「期待から来るプラシーボ効果」 はどれなのか 考えてみてください そしてそれが 人生における決断― 願わくば 私たち皆に影響する 政策的問題において どんな意味を持つのか 考えてみてください
ありがとうございました
(拍手)
引用元:TED