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不平等の問題を平和的に解決できないと、大きなリスクとして「ナショナリズムの台頭」を招く/報道ステーション「トマ・ピケティ×古舘伊知郎」

2015年2月4日に放送された、報道ステーション「トマ・ピケティ×古舘伊知郎」を紹介します。

(所要時間:約15分)

※ 残念ながら動画が見れない状態になりましたので、〔再生可能な動画〕へのリンクを紹介しておきます。 (報道ステーションの公式サイトです)

動画の内容 (全文書き起こし)
大きなリスクとしてナショナリズムの台頭を招きます

古館キャスター:

ピケティさんは、色々と調べさせていただきますと、何と16歳で大学入試資格を取り、気が付いたら23歳という若さでマサチューセッツ工科大学の教鞭をとって、学生に教えてる。自分の脳のポテンシャルを持て余したりすることないですか? 今までで。

ピケティさん:

それは違いますよ。確かにアメリカでは若くして教鞭をとりました。経済学の勉強を始めたころは数学的なアプローチが中心で、経済学のすべてを知っていたわけではありません。そこで歴史的な研究に重点を移し、膨大なデータ収集に時間をかけました。だから能力を持て余す暇はなかったですよ。

古館キャスター:

日本においては もうご存知だと思いますけども、「これは分厚くて難しいから読まなくていい!」、この解説本を読めば「ああそうだったのか」と「ピケティさんの この不等式がはっきり分かる」っていうのが、解説本がこんなにもね、出てまして、で 読みますとね、ピケティさんを語るようでいて「私が思うに…」って自論をず~っと並べてるって(笑)

これも想定内ですか? かなり批判されてる部分もありますけど。

ピケティさん:

ごめんなさい。日本語が読めないので、それぞれの解説本が何と言っているかはよく分かりませんけど、私の『21世紀の資本』が成功した理由は日本や欧州など世界各地で、経済の現状に不満を抱く人がたくさんいるからだと思います。

この本の意義は膨大な歴史的データを収集したことです。不平等については あれこれと議論が繰り返されてきましたが、裏付けとなるデータがほとんどなかったのです。

▶ 「不平等」は なぜ拡大?

古館キャスター:

今までの経済理論の一部には、きちっと、どんどん経済成長 拡大していけば、やがて下の層の人たちにも果実がどんどん滴り落ちていって、結果「全体的に底上げしていく」「格差は縮まる」っていう今までの理論をこれを覆してしまった。

ここに書かれている謎の不等式ですよね、株とか債権、そして不動産とか、お金持ちがそういう「資本に投資をして儲けていく率」の方が、結果は圧倒的に、汗水たらして働いて「労働から勝ち得る所得」よりも、圧倒的にこっちの方が有利に儲ける率が高い。だからそこで どんどん不平等、あるいは格差が生まれてくる。ここを論じたところが凄いなと思うんですけども。

ピケティさん:

私が特に強調したかったのは、「資本収益率(株などから得られる利益)」が「経済成長率(労働による賃金の伸び)」よりも高くなるという長期的な傾向です。

特に日本のような国であれば、理解は簡単でしょう。なぜなら過去20年の経済成長率が非常に低いからです。人口増加率が低迷していて、マイナスになっていることも原因です。

戦後の成長期においては、富を持たない人でも、経済成長率が非常に高かったので豊かになれた。労働所得が伸び続けたおかげで十分に豊かになることができました。しかし、今の若い世代は東京やパリ、ロンドンでマンションを買いたくても、労働所得が高くないと無理です。親に資産がなく、労働所得も平均レベルでは、戦後のベビーブーム世代よりも豊かになるのはずっと困難です。

古館キャスター:

格差が、かなり極みまで進んだ時に、かつてフランス革命が起きた。格差が進んで極みにきた時にロシア革命が起きた。そういう歴史的なことを考えると、いまも、「革命的なことが起きてしかるべきかな?」と思ったりしますが?

ピケティさん:

“革命”などの政治的ショックには、不平等が原因となっているものもあります。国内の不平等の問題を平和的に解決できないと、他の誰かに責任を転嫁しがちになります。フランス国内では極右勢力が外国人労働者を非難したり、外国のせいにしてみたり。不平等の問題を平和的に解決できないと、大きなリスクとして、ナショナリズムの台頭を招きます。

古館キャスター:

フランスにおいても移民政策は失敗してるんじゃないでしょうか? 様々な悲しい事件が起きてますが?

ピケティさん:

移民が多すぎること自体が問題ではありません。問題の本質は私たちがフランスの若者に、十分なスキル・教育・仕事を提供できていないことにあります。自身が移民であれ、移民の子であれ、移民の孫であるかによらず、若者の失業率が高すぎるのです。これが若い世代の間で緊張感を高めています。

私は「経済のグローバル化」も「財産の所有」も「市場原理」も肯定していますが、ともすると多くの人たちがナショナリズムに傾倒したり、「グローバル化はよくない」と思ってしまう恐れもあります。

▶ 「不平等」なくす切り札は?

古館キャスター:

やっぱりピケティさんが、きちっと仰っているように、「世界のGDPの1割が隠されてる」という現実。それはお金持ちがケイマン諸島なのか、あるいはその他のタックスヘイブンなのか、そういうところに富の一部を隠してしまっている、それが「世界のGDPの1割隠されている」っていう この不平等、そこをなんとかきちっと還元しなきゃってところが具体的で「良いなぁ!」っと思うんですけども、それは出来るでしょうか?

ピケティさん:

状況を是正することは可能だと思います。例えば、スイスの事例を見てみましょう。5年前までは、スイスの銀行は絶対秘密主義で、それを崩すのは不可能だと誰もが思っていましたが、「情報開示しないと制裁を科す」とアメリカが決めたら、スイス政府は「わかった ルールを変えよう」と対応したのです。

つまり、適切な制裁を科せば、金融の透明化につながるわけです。国際協力の枠組みが今はないからといって、「何もできない」と言い訳にしてはいけません。私たちは歴史から学べるはずですし、大きな政治的ショックを待たずとも、タックスヘイブンとの戦いを進められる。私は、未来は結構明るいと思いますよ。

▶ 日本への処方箋

古館キャスター:

日本は実質賃金がず~っと2000年以降ですね、2000年代に入って下がり続けてます。そして、「非」正社員がですね、4割に近づこうとしています。給料の格差が正直あります。で、一方では企業は内部留保をどんどん増やしてる。さあ、この現象をどうしたらいいでしょう?

ピケティさん:

私から言えるのは「金融政策に頼りすぎてはいけない」ということです。量的緩和でお金を刷るのは簡単ですが、紙幣の増刷だけですべての問題の解決は無理です。場合によっては、賃金を上げることも必要でしょう。お金を刷るだけでは、不動産や株価など資産バブルを生むことにつながりかねないからです。

賃金の伸びに対して、不動産価格の上昇の方が大きければ、それだけ土地などの資産購入が困難になります。だからこそ、税制改正によって、「低・中所得者には所得税の減税」「富裕層の資産には増税」が必要でしょう。

おそらく日本政府は、このうような策を講じてきてはいないだろうと思います。消費税の引き上げだけでは、正しい方向には導けないと私は考えます。

▶ 資本主義と民主主義

古館キャスター:

例えばですね、世界もそうかもしれませんが、日本は中間層から下の、おっしゃるように所得税を減税させて、富裕層の累進課税 これを進める。で、これで上手くいくなら一番いいと思うんです。

ほんのちょっとの率をとるだけでも、もの凄いスケールの資産があるので、ちょっと取ったからってこの人たちが傷ついたり痛んだりしないわけですよね。で、その数パーセントを、下の層に持ってきた時には、ここはもの凄いスケールで、安心できるわけですよね。ここ(上)の数パーセントがこっち(下)にとってはもの凄い額になりますね。

ピケティさん:

過去20年間で高所得者の税率は実質的に下がってきている。その点を政治的に議論することが必要だと思います。

あくまでも一例ですが、純資産1億円未満の人は税率「0%」1億円から2億円の人は富裕税「1%」、さらに2億円から5億円の人は「2%」そのような累進課税も可能でしょう。

民主主義的に透明性を持って、低・中所得者を守り、富裕層には負担を求めることが必要です。

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