@動画 > 科学・技術 > 食料を安定供給するためには、「遺伝子組換え」を科学的に意味を持たない「GMO」という言葉を使ってひと括りに「悪いもの」と思い込まないことが重要/パメラ・ロナルド

食料を安定供給するためには、「遺伝子組換え」を科学的に意味を持たない「GMO」という言葉を使ってひと括りに「悪いもの」と思い込まないことが重要/パメラ・ロナルド

植物の分子遺伝学研究者であるパメラ・ロナルドさんが、「洪水でも生き残ることのできるイネ品種」の開発に取り組んだ経験や、遺伝子工学を使って病虫害を克服し 殺虫剤の使用量を減らした例などについて話し、増えつつある人口に食料を安定供給するためには、植物に耐病性やストレス耐性をもたらすような遺伝子組換えを悪いものと思い込むのはいかがなものか?と指摘しています。

(所要時間:約18分)

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動画の内容 (全文書き起こし)
実際の遺伝子組換え食料/パメラ・ロナルド

私は植物の分子遺伝学研究者です 植物に耐病性やストレス耐性をもたらすような 遺伝子の研究をしています ここ数年 世界中の何百万人という人々が 遺伝子組換えを 何か悪いものと 思い込むようになってきました 今日は 違った見方をお話しようと思います

最初に 私の夫のラウルを紹介します ラウルは有機農業者です 彼は自分の畑に 様々な種類の作物を植えています 多品種栽培は彼が 農場を健康的に保つために用いている 環境にやさしい農業の方法のひとつです 私たち夫婦が時々言われるのは 「本当に? 有機農家と 植物分子遺伝学者の夫婦? 意見が合うことってあるの?」

2人とも同じ目標を持っているので 意見は合いますし難しくはないです 私たちは増え続ける人口を 養う手助けをしたいと思っています 今以上に環境を破壊すること無しにです これは今の時代の 最重要課題だと私は思います

さて 遺伝子を改変することは 目新しいことではありません 実際のところ すべての食べ物が 何らかの手法で 遺伝子改変されてきたと言えます

いくつか例をご覧にいれましょう

左側はトウモロコシの 昔の祖先原種です 硬い殻をかぶった実が1列だけ穂についているのがわかります ハンマーを使わないと このテオシンテから トルティーヤを作ることはできません バナナの祖先原種をご覧ください 大きな種があります あまり美味しそうでない芽キャベツと ナス 見事ですね

このような現在の品種を作り出すために 育種家たちが長年にわたって 様々な遺伝学的技術を駆使してきました

中にはかなり創造的な技術もあります 全く異なる植物種を1つにする― 接ぎ木と呼ばれる技術を使って この半分トマトで 半分ジャガイモの品種を作りました 育種家は他の遺伝学的技術も 使ってきました 放射線ランダム変異導入法のような技術です この方法では機能未知の突然変異を 植物に起こさせます お米はよく赤ちゃんに 食べさせる穀物ですが この方法で開発されました

現在では育種家は さらに色々な方法を選択することができます 非常に正確な方法もあります 私自身の仕事から いくつかの例をお話ししましょう

私が扱っているイネは 世界の半数以上の人々主食としています 毎年 予想収穫量の40%が 害虫や病気で失われます そのため 農家は 病害抵抗性遺伝子を持つイネ品種を 植えることになります 100年近く この方法がとられてきました しかし 私が大学院に進学した頃は この原因遺伝子が何か 全く知られていませんでした

1990年代になって ようやく科学者たちは 抵抗性遺伝子を見つけました 私の研究室では アジアやアフリカの深刻な細菌病に対する 抵抗性遺伝子を同定しました この遺伝子を遺伝子工学で 従来イネ品種に導入することが出来ました 従来品種は一般に病害感受性です 下の2枚のイネの葉を見てください 感染実験に対して 強い抵抗性を示していますね

さて 私の研究室が このイネの病害抵抗性遺伝子の発見を 学術誌に発表したのと同じ月に 研究者仲間のデーブ・マッキルが 研究室に立ち寄ってくれました 「7千万人のイネ農家が 栽培に困っている」と彼は言いました 水田が浸水するためだというのです その地域の農家は 1日あたり2ドル以下で生活しています

イネは水をためた状態で栽培しますが ほとんどのイネ品種は 3日以上 水をかぶってしまうと死んでしまいます 気候変動のため 洪水は ますます大きな問題になると 予測されています

デーブは彼の学生である ケノン・シューと一緒に 驚くべき性質を持ったイネの古代品種を 研究していると話してくれました この品種は完全な浸水状態でも 2週間生き続けるということでした この原因遺伝子の同定を 手伝ってくれないかとデーブに頼まれ 引き受けました 私はとても興奮しました もし上手くいったら 洪水になっても 何百万ものイネ農家を助けることができるかもしれないのですから

ケノンは原因遺伝子を探すのに 10年を費やしました そして ある日彼は言いました 「実験を見に来てください 見てもらわなくちゃ」 温室に行って目にしたのは 従来種のイネが18日間 浸水して死んでしまった一方で 私たちが発見した 新しい遺伝子であるSub1を 遺伝子工学で導入した 新しいイネ品種は生きていました

ケノンと私は驚いて色めき立ちました たった1つの遺伝子が この劇的な効果をもたらしたのです でも これは温室での実験結果にすぎません 実際の水田でも上手くいくでしょうか?

これから4ヶ月間の 低速度撮影ビデオをお見せします 国際稲研究所で撮影されたものです 国際稲研究所の育種家が Sub1遺伝子を持ったイネ品種を DNAマーカー育種という また別の方法を使って開発しました 左側がSub1品種です そして右側が従来品種です

両方共 最初はとても元気です でも17日間 水田を浸水させます Sub1品種が立派に生き延びたのを ご覧いただけます 実際にSub1品種は 従来品種に対して3.5倍の 収穫高でした このビデオが大好きなのは 植物分子遺伝学に農家を助ける力が ある事を示しているからです 昨年 ビル&メリンダ・ゲイツ財団の 助成によって 350万人の農家が Sub1品種を栽培しました

(拍手)

ありがとうございます

イネの遺伝子をイネに導入する場合には 多くの人々は遺伝子改変のことを 気にしません 接ぎ木によって 植物種を混ぜ合わせたり 放射線突然変異を 起こしたりすることも気にしません けれども ウイルスや細菌由来の遺伝子を 植物に導入するとなると 多くの人が言います 「オエッ」

どうしてそんなことをするのかって? その理由は 食物の安定供給と 持続可能な農業を進める上で この技術が最も安価で安全で 効果的であることがあるからです 3つの例をお話ししましょう

まずパパイヤをご覧ください 美味しいですよね では このパパイヤを見てください このパパイヤはパパイヤ・リングスポット・ ウイルスに感染しています 1950年代には このウイルスによって ハワイのオアフ島の パパイヤ生産は ほとんど壊滅するところでした

ハワイのパパイヤは もうおしまいだと多くの人が考えましたが その時 地元ハワイの デニス・ゴンザルベスという 植物病理学者が 遺伝子工学を使って この病気と戦うことにしました 彼はウイルスのDNAの断片を切り取り パパイヤのゲノムに導入しました これは人間で言えば ワクチンを接種するようなことです

彼の圃場試験をご覧ください 中央に遺伝子操作したパパイヤがあります これは感染に対する免疫があります 周囲の従来品種パパイヤは ウイルスにひどく罹患しています

デニスのこの先駆的な仕事のお陰で パパイヤ産業は救われました 20年経った今も この病気を抑える 他の方法は見つかっていません 有機農法でも従来農法でもです ハワイのパパイヤは 80%が遺伝子操作されています

食べ物にウイルスの遺伝子が含まれているのを 不快に思うかもしれません でも考えてみてください 遺伝子操作したパパイヤには ウイルスはごく微量しか含まれていません もしこのウイルスに感染した 有機栽培のパパイヤや 従来栽培のパパイヤをひと口かじると 10倍以上のウイルスタンパク質を 噛みしめることになるのです

ではナスを食べている この害虫を見てください 茶色く見えるのは虫のフンです 虫のおしりから出たものです この深刻な虫害を抑えないと バングラデシュのナス収穫は壊滅的です

バングラデシュの農家は 週に2~3回 殺虫剤を散布します 虫害がひどい時などには 1日に2回の時もあります 殺虫剤の中には人間の健康に とても有害であるものもあります この子どもたちのように 農家やその家族が 適切な防護手段をとる 余裕がないときには特にです

発展途上の貧しい国々では 年間30万人もの人々が殺虫剤の誤用や 殺虫剤にさらされることによって 亡くなっているとされています コーネル大学とバングラデシュの科学者はこの虫害に立ち向かうのに 有機農業的手法に基づいた 分子遺伝学を使うことを決めました

私の夫のラウルのような有機農業者はB.T.と呼ばれる殺虫剤を散布します B.T.は細菌由来です この殺虫剤は芋虫に特異的に効きます 実際に人間や魚や鳥には 毒性は全くありません 食塩よりも毒性が低いくらいです でもこの方法は バングラデシュでは上手くいきません この殺虫剤が入手しづらく 高価で 虫が植物の中に入ってしまうのを 防ぐことはできないからです

遺伝子工学では 科学者が 細菌から有用な遺伝子を切り出して 直接ナスのゲノムに挿入します これはバングラデシュでの 殺虫剤散布量を減らしてくれるでしょうか? 減りました 昨年 農家は殺虫剤使用量を 大きく減らすことができた― ほぼゼロに近くまで減らせたと 報告しました 種を収穫して 翌シーズンに もう一度栽培することができます

遺伝子工学を使って病虫害を克服し 殺虫剤の使用量を減らした例を 2つお話ししました 最後の例は栄養失調を減らすために 遺伝子工学を使う例です

発展途上国では ビタミンAの欠乏のために 毎年50万人の子どもたちが視力を失います その半数以上がやがて亡くなります このため ロックフェラー財団の 助成を受けた科学者たちが 遺伝子工学で 「ゴールデンライス」を作りました

このコメはビタミンAの前駆体である β-カロテンをつくります ニンジンの橙色と同じ色素です 1日あたり たった1カップの ゴールデンライスで 何千人もの子どもたちの命が救われると 研究者は見積もっています けれども ゴールデンライスは 遺伝子組換えに反対する活動家による 強い反対を受けました

ちょうど昨年 活動家たちはフィリピンにある 試験農場に侵入して破壊しました 私がこの事を聞いて思ったのは 活動家たちは彼らが壊しているのは 単なる科学研究プロジェクトではなく 視力や命を失いかけている子どもたちの 医薬品を破壊していると わかっているのだろうかということでした

私の友人や家族には まだ心配する人もいます 食べ物の中の遺伝子を食べても 安全ってどうして分かるの?

遺伝子工学というのは 生物種を超えて 遺伝子を移動させる過程で 40年以上前から使われてきました ワインや医薬品や 植物やチーズにも使われています その間 人間の健康や 環境に害があったことは ただの一度もありませんでした

でも私を信じてくださいとは言いません 科学は信仰ではないからです 私の意見はどうでもいいのです 証拠に目を向けてみましょう 20年間に及ぶ注意深い研究と 何千人もの科学者による 厳しい相互評価を経て 世界中の主だったすべての科学団体が 結論を出しています

現在市場に流通している作物は 食べても安全であり 遺伝子工学の手法は 昔からの遺伝子改変方法に比べて より危ないわけでははないと これらの団体は まさに私たちのほとんどが 地球温暖化やワクチンの安全性といった 他の重要な科学的問題については 信用する団体なのです

ラウルと私は食べ物の中の遺伝子を 心配するのではなく 子どもたちの健やかな成長を助ける方法に 集中すべきだと信じています
地方のコミュニティーの農家が潤っているか 誰もが食べ物を買えているかを 問わねばなりません 環境破壊を最小限にするよう 努力しなければなりません

植物分子遺伝学についての 声高な反対論と誤った情報について 私が最も恐れているのは 食べるに十分な生活をしている人々の 根拠のない恐怖や偏見によって この技術を最も必要としている 最も貧しい人々から 技術が遠ざけられることです

私たちの目の前には難題が山積しています 科学の進歩を喜び 利用しましょう 人々の苦痛をやわらげ 環境を守るためなら できることは全てするというのが 私たちの責任だと思うのです

ありがとうございました

(拍手)

ありがとう

(クリス・アンダーソン)

力強い主張でした GMOに反対する人たちは 私の理解では 主に2つの理由があると思います

1つ目は複雑さと 意図されていない結果です 自然というものは とてつもなく複雑な機構です もし人間が創造した全く新しい遺伝子― 長年の進化の過程にはなかった遺伝子を 解き放つと 他の遺伝子と混ざり始めて 何らかの激変や大問題の きっかけになるんじゃないかと 特にある企業の経営戦略の中でそれを行うと どうなるでしょう?

そのような経営戦略は 純粋な科学に基づいて 決定されないために怖いのです

仮に科学に基づいた決定だとしても 予期しない結末はありえます 予期しない結果になっても 大きな危険はないのはなぜでしょう? 人間が自然をいじくりまわすと 大きな予期できない結果をもたらし 連鎖反応することがしばしばあります

(パメラ)

ええ 産業利用の観点で 理解しておくべき重要な事があります 合衆国のような先進国の農家は ほとんど皆 有機農家でも従来栽培農家でも 種苗会社から種子を購入します ですので 多くの種子を売るための 経営戦略がありますが なるべく農家の買いたいと思う 種子を売っています

発展途上国では事情が異なります 農家には種子を購入するお金がありません 種子は売られていないのです ある種の伝統的な保証グループによって 無料で配布されています ですので 発展途上国では 種子が無料で手に入ることが とても重要です

(クリス)

実はこれが何らかの陰謀だという活動家もいます 「ヘロイン戦略」と言って この種を使うと やがては永久に この種を買い続けるしかなくなるのではないかと

(パメラ)

確かに沢山の陰謀説が ありますが そうはなりません

たとえば 洪水耐性のイネの種子は インドとバングラデシュの 種苗協会を通じて 無料で配布されています 営利目的ではありません ゴールデンライスも ロックフェラー基金の支援で開発されました やはり無料で配布されています この場合は商業的利益は 全くありません

もうひとつの質問については 遺伝子を混ぜ合わせることで 何か予期しない結果がもたらされるのでは というものです 確かにそうです 毎回違うことを行いますから 予期しない結末はつきものです

でも1つ はっきり言いたいのは これまでにも植物に対して 無茶なことをやってきたということです

放射線照射や変異原性化学物質による 突然変異誘導などです これは何千もの性質の分からない 突然変異を引き起こすもので 現代の方法の多くよりも 予期しない結果を引き起こすリスクが より高くさえあります

ですから 科学的に意味を持たない GMOという言葉を 使わないことが本当に重要です 特定の穀物や生産物にしぼって話し合い 消費する人のニーズを考えることが とても重要だと感じます

(クリス)

では ここで問題になっているのは 精神的なものですね 多くの人々にとっては自然は自然で 純粋で穢れ無きものです いじくり回すと フランケンシュタイン博士的になってしまう 純粋なものを何かしら 危ないものに変えている

あなたがおっしゃるには このモデルそのものが 自然のあり方を誤解していると言うわけですね 自然にはもっと混沌とした 遺伝学的変化の相互作用があり それはこれまでにも起こってきたのだと

(パメラ)

その通りです 純粋な食べ物などありません つまりナスに殺虫剤をまくこともせず 遺伝子操作もしないならば 虫のフンを食べるしかないのです ですので 純粋性はそこにはありません

(クリス)

パメラ・ロナルドさん ありがとう 力強い主張でした

(パメラ)

どうもありがとうございます 感謝します

(拍手)

引用元:TED

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