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貧しい人達に現金を渡すと何が起こるか?/ジョイ・サン

熟練の援助従事者であるジョイ・サンさんが、貧しい人たちに現金を直接届ける活動について紹介しています。

(所要時間:約8分)

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動画の内容 (全文書き起こし)
JOY SUN

私が思うに アフリカにいる援助従事者であれば 誰しもそのキャリアで 学校建設や研修プログラムなどのプロジェクトに充てられた資金を スーツケースにつめこんで 最貧困の村々に飛んで飛行機の窓からそのお金を落としたいと一度は願うときがあります なぜなら 熟練の援助従事者にとって世界で極貧にあえぐ人達に現金を届けるという考えが突飛ではないからです 本当に納得がいくんです

私がこの思いに至ったのはちょうど10年目で 幸運にもこのアイデアが実在するのを知ったときで まさに支援システムが必要としていたものかもしれません 経済学者たちはこれを「条件なしの現金給付」と呼び 文字通り条件なしで現金を支給します 開発途上国の政府はこれを何十年もやってきましたが 今になって初めて これまでの経験や新しいテクノロジーを駆使して支援を届けるモデルの実現が可能になりました とても単純なアイデアですね?

では なぜ私は十年もかけて貧しい人達のために別のことをやったのでしょうか? 正直なところ 私は資金があれば 貧しい人々により良いことができると信じていました 彼ら自身ができることよりもです これには二つの思い込みがありました まずは 貧しい人達が貧しいのは教育を受ける機会がなく ゆえに良い選択ができないから 二つ目は 彼らのニーズを見極めて届ける 私のような専門家が必要だということです ところが 実際にはそうではありませんでした

貧しい人達に現金を渡すと何が起こるかという研究が 近年進んでいます 多くの研究でおしなべて分かったのは 手に入れた現金で自分達の生活の向上を図るということでした ウルグアイの妊婦たちは栄養価の高い食べ物を買って健康な赤ちゃんを出産します スリランカの男性たちはビジネスに投資します 私たちのケニアでの活動を調査した研究者によると 現地の人達が投資するのは実に様々でした 家畜から道具や家の修繕までです

そして 現金を受け取った一年後には ビジネスや農業を通じて所得も向上していました また 人々が飲酒や喫煙にこれまで以上に費やしたり 仕事をしなくなったりしたということもありませんでした 実はその反対でもっと働くようになります

ここまでは物質的なニーズでしたが ベトナムでは棺を購入したお年寄りの受給者もいました マズローの欲求段階説には反しているかもしれませんが 私は精神的なニーズを重んじるこの選択はとても謙虚だと思います 私なら食糧や物か 棺を渡すのか 分かりませんが ここで問うべきは 貧しい人達の代表として 私たちは資源の配分にどれくらい長けているか? 費用対効果はどうか? ということです

ここでも経験的証拠を見ていきます 私たちが選んだものを届けると何が起こるでしょうか インドのプログラムについて 説得力のある研究によると 極貧にあえぐ人達へ家畜を支給する取組みでは 受給者の3割がそっぽを向いてこの家畜を売りに出しました そして手に入れたのが現金です 本当の皮肉はここからです このプログラムで 100ドルの価値があるものを支給した場合 事務手続きなどに更に99ドルを費やしていました

では現金を支給するために テクノロジーを使ってはどうでしょう 援助団体からでも 誰からでもかまいません 貧しい人達の手に 直接 現金を届けるのです こんにち ケニア人の4分の3が モバイルマネーを利用しています どの携帯電話でも使える 銀行口座のようなものです 送金者が1.6パーセントを負担し クリック一つで 受取人の口座に 現金が送られる仕組みです 仲介業者は通しません

テクノロジーが既存の産業を破壊してしまうことがあるように 貧困国における決済技術が 既存の援助を破壊するかもしれません モバイルマネーは瞬く間に普及しているので 世界の貧困層にいる何十億人に届く日が来るでしょう

そこで私たちが立ち上げたのが GiveDirectlyです 私たちは貧しい人達に現金給付を行う初の団体です これまで3万5千人に給付を行ってきました ケニアとウガンダの農村部で 1家族につき 1回千ドルを給付します これまで対象としてきたのは 貧しい村で極貧にあえぐ人達で セメントや鉄筋ではなく 泥や藁ぶき屋根の家に住まう人達です

皆さんがこの家族だったとします 私たちはAndroid携帯を手にお宅を訪れます お名前をうかがい 顔写真と小屋の写真を撮ります そしてGPS座標を取得します その日の晩 クラウドに全データを送ると それぞれのデータが 専門家チームによって確認されます この際 衛星画像などが用いられます そして またお宅にうかがって もし携帯電話をお持ちでない場合は 簡易な携帯電話を買ってもらい 数週間後 そこに送金します 5年前には実現不可能に見えたことが 今では 効率的に 腐敗の心配もなく行うことができます

貧しい人達に より多くのお金を渡すことで上手くいくことが証明されていけば 現金給付以外の援助の形を再検討する必要があります こんにちの援助活動の裏側にある論理は 「少なくとも良いことをしている」 ではないでしょうか これを目標にしてしまうと 自己満足におちいり 何もしないより支援しているからましだと勘違いしてしまい 投資が非効率化してしまいます 革新的なことをやっていると思い込んで 報告書の作成に注力したり 飛行機代や車の購入にお金を使います

援助活動の論理が 「現金を直接渡すより良いことができるか?」 であったとすれば 援助団体が目指すべきは 貧しい人達が自ら対処するより もっと良いことができるということです もちろん現金を渡すだけで公共財の創出にはなりません 疾病の根絶や 公的機関の強化なども必要です ただ 個別世帯の生活向上を私たちがいかに支援できるかという より高い目標にできます

私は援助に期待しています ほとんどの援助活動が 飛行機からお金を落とすより良いことをしていると思います それでも もう一つ確信しているのは 現在の援助の多くが 貧しい人達に直接お金を渡す以上に効率的に機能していないことです 今後 これが逆転することを願っています

ありがとうございました

(拍手)

引用元:TED

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