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世界は今、貧困の隠された理由にこそ立ち向かわなければならない/ゲイリー・ホーゲン

公民権を専門とする弁護士のゲイリー・ホーゲン氏が、貧困の原因は「日常生活における暴力」と「法に守られていないこと」にあると解説し、既存の貧困撲滅プログラムでは、この問題を解決できないと指摘します。

そして、貧困を撲滅するためには、新しい司法制度の作成を支援し「民間の警備に頼らずとも誰もが安全に暮らせる制度」の構築が必要であり、それは可能だと訴えています。

(所要時間:約22分)

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動画の内容 (全文書き起こし)
世界は今、貧困の隠された理由にこそ立ち向かわなければならない/ゲイリー・ホーゲン

正直に言うと 私は性格的に そんなに泣く方ではありません しかし 仕事の上で それは良い事だったと思います 私は公民権が専門の弁護士で 世界の身の毛のよだつ出来事を 見てきました

初めての仕事は アメリカで警官の権力乱用事件でした そして1994年 私はルワンダへ 国連の大虐殺調査のディレクターとして 派遣されました 大虐殺について調査する時 涙はあまり訳に立たないと分かりました 見たり 感じたり 触れたりしなければ ならなかったことは とても言葉では表せません

私に言えることはこうです ルワンダの大虐殺は たんなる思いやりだけでは敵わない 世界の大失策でした compassion ( 思いやり ) という言葉は cum passio 「共に苦しむ」という意味の 2つのラテン語に由来しています ルワンダで見たり 経験したことから 人間の苦悩というものに直面し 私はときに 涙しました しかし 私は自分や他国がもっと早く行動していたならと願わずには いられませんでした そうすればただ泣くのではなく 大虐殺を実際に止められたのです

一方で 私は思いやりが 世界規模で とても上手く機能した件にも 関わってきました それは世界の貧困との戦いです

この会場にいる 私たち全員が関わったであろう運動です 皆さんが貧困撲滅のために 初めてしたのは “”We Are the World”"の合唱だったり 金銭的に支援した子供の写真を 冷蔵庫の扉に貼ることだったり 新鮮な水が飲めるよう 自分の誕生日に寄付したことかもしれません 私は貧困撲滅のために 初めて何をしたのかよく覚えていませんが 一番動揺したことが何だったか 覚えています

それは ヴィーナスに会った時のことでした 彼女はザンビア出身の母親で 子供が3人いる未亡人でした 私がヴィーナスに会ったとき 彼女は着の身着のまま 12マイル程の道のりを歩いて 首都まで来て何時間も一緒に座って 自分の話をしてくれました それが私が貧困の世界で 働くきっかけになりました

彼女は貧困とはどのようなものなのか― 調理用暖炉の石炭が 完全に冷たくなった時 調理用オイルの最後の一滴が尽きた時 物凄く頑張ったのに 最後の食べ物がなくなった時のことを 語ってくれました 彼女の一番下の息子のピーターは栄養失調で 徐々に足が曲がって歩けなくなりました 目から光が消えていき ピーターは死んでしまいました

半世紀以上に渡り このような話が 私たちを思いやりへと突き動かしてきました 私たちの子供には 食べ物がたくさんあります 世界の貧困に関心を持つだけでなく 私たちは実際に苦しみを 止めるための活動をしていますが 活動が十分でなく 又 活動しても 十分な成果が出ていない という批判も多々あります でも 真実はこうなのです 世界の貧困撲滅運動は おそらく人類史において 最も幅広く 長期に渡って 人の思いやりの心を 示してきたものです

しかし私は 心が打ち砕かれそうな見解をお話しします この話で貧困との戦いに対する認識が すっかり変わるかもしれません

まず 皆さんがご存じのことから お話ししましょう 35年前 私が高校を卒業した頃は 貧困により毎日4万人の 子供が亡くなると言われていました 今日その数は1万7千人に減少しています もちろん それでも多いのです しかし毎年800万人の子供が 貧しさ故に死ななくても良くなりました

更に 世界で赤貧状態で暮らす人数― 1日約1ドル25セントで暮らす人数が 50%から僅か15%になりました これは物凄い進歩です 予想以上の成果を上げたのです 皆さんと私とで 素直に 誇りを感じ 勇気づけられることとして 思いやりの力によって 何百人もの貧困に喘ぐ人々を 救えることを目の当りにしたからです

しかし あまり知られていませんが 貧困の定義を1日2ドルと変えると 私が高校生の時 厳しい貧困に喘いでいた20億人は 私が高校生の時 厳しい貧困に喘いでいた20億人は 35年後も貧しいままなのです

なぜ何十億人も 赤貧に取り残されたのか?

ヴィーナスのことを考えてみましょう 何十年も妻と私はよくある思いやりの形に 心を動かされていました 子供たちへの援助 マイクロローンへの出資 気前のよい対外援助などです でも ヴィーナスに会う前までは 様々な支援が行われているのに ヴィーナスの息子が死ぬ理由が 分かりませんでした

「ブルータスが嫌がらせをするまでは よかったのです」と ヴィーナスが私に言いました

ブルータスはヴィーナスの隣人で トラブルメーカーでした ヴィーナスの夫が死んだ翌日 ブルータスがやって来て ヴィーナスと子供たちを家から追い出し 土地を盗み 露店を奪いました 暴力によって ヴィーナスは貧しくなったのでした

もちろん チャイルド・スポンサーシップも マイクロローンも 従来の貧困撲滅運動も ブルータスを止めなかったのです なぜなら目的が違うからです

これはグリセルダに会って より明確になってきました 彼女はグアテマラの貧困地域に暮らす 魅力的な若い少女です 長年かけて私たちが学んだことですが グリセルダと家族が 貧困から抜け出すために可能で 最も有効な手段は グリゼルダを学校に行かせることなのです 専門家はこれを 「ガールエフェクト」と呼んでいます 私たちがグリゼルダに会った時 彼女は学校に行っていませんでした 事実 彼女はほとんど自宅から出ていませんでした

私たちに会う前 家族と教会から歩いて帰る時 白昼堂々と 同じ村の男が 彼女を路上から連れ去り 彼女を暴力的にレイプしたのでした グリセルダには 学校に行くさまざまな機会がありました でも 危なくて学校に行けなかったのです

グリゼルダに限ったことではありません 世界の貧しい15才から44才までの女性は 家庭内暴力や性的暴力など 日常的に暴力に晒されています この2つの暴力による死亡や障害は マラリアや自動車事故 戦争関連の合計よりも多いのです

実は 世界の貧しい人々は 暴力の罠に嵌っているのです

例えば 南アジアで 私がこの精米所を車で通り過ぎた時 この男性が45kgくらいの米のずた袋を 痩せた背中に担いでいるが見えました 後になって 分かったことでしたが 彼は実は奴隷で 私が高校生の頃から 精米所で暴力を受け続けていたのです

彼の村には数多くの 貧困撲滅プログラムがありますが 彼のことも 他の百人の奴隷も 鞭打ちやレイプ 精米所の内部での拷問から 救ってはくれませんでした

事実 貧困撲滅プログラムが行われて 50年経ちますが 人類史上 どの時代よりも多数の 貧困に喘ぐ人々が奴隷となっています

専門家によると 今日 約3千5百万人の奴隷がいます つまり今日皆さんがいらっしゃる カナダの全人口くらいが奴隷なのです やがて私はこの暴力の蔓延を 「イナゴ効果」と呼ぶようになりました イナゴの大群のように 貧しい人々の暮らしを襲い すべてを破壊してしまうからです

事実 赤貧に喘ぐ村を調査すると 住民の最大の恐怖は暴力だと言うのです でも ここで言う暴力とは 大虐殺や戦争による暴力ではなく 日常生活における暴力なのです

もちろん弁護士として 私が最初にする対応は 全ての法律を 変えるべきだと考えることです 貧しい人への暴力が違法と なるようにしなければなりません でも 既にそういう法律はあるのです

問題なのは法律がないことではなく 貧しい人を守るため 法が執行されないことなのです

開発途上国では基本的な法律の 執行制度が かなり破綻しているのです 国連が最近公表した報告書によると 「赤貧に喘ぐ人々は法に守られていない」 というのです 皆さんも私もどう受け止めてよいのか 分からないのが正直なところでしょう 法に守られないという体験を したことはないからです

私達には警察機関が機能することが まったく当たり前のことです この3つの番号―911が それを最も明確に表しています 911に電話すると ここカナダやアメリカでは 緊急通報のオペレーターにつながります 911に電話してから約10分で 警察が来ます

911の利用を当然と思っていますが もし皆さんを守る警察組織が なかったらどうなるでしょうか?

最近オレゴン州の女性が こんな体験をしました 彼女は土曜日の夜 暗い家に一人でいると 男が彼女の家に押し入ろうと するのでした これは彼女にとって最低の悪夢でした 実際この男はほんの2週間前に 彼女を襲い入院させたのです 恐怖に怯え 彼女は電話を取り 誰もがするように 911に電話するのですが しかし 郡の予算削減により 週末には警察が 休業だと知らされるのです

聞いてください

(911) 誰も派遣できません

(被害者) そう

(911) 男が家に入り襲ってきたら 家から出るように言ってください 男は酔っぱらっていますか?

(被害者) 帰ってと言いました 通報したとも言いました 前にもドアを蹴破って入ってきて 暴行してきたんです

(911) そうですか

(被害者) だから…

(911) ご自宅から逃げられますか?

(被害者) 無理です 完全に逃げ道を塞がれています

(911) アドバイスしかできませんが 明日 保安官に電話してください 明らかに男が家に入ってきて 不運にも武器を所持しているとか 危害を加えようとしているのなら 話は別です それは保安官の仕事ではありません 誰も派遣することはできません

ひどいことに その家にいる女性は 暴行され 首を締められ レイプされました これが法に守られないということであり 何十億という貧しい人々は そういう場所に暮らしています

それはどのようなものなのか?

例えばボリビアで 男が貧しい子供に性的暴行を加えたとき 統計的に見て その男がシャワーで滑って死ぬリスクの方が その罪で刑務所に行く 可能性よりも高いのです 南アジアでは 貧しい人を奴隷にしたとき 雷に打たれるリスクの方が その罪で刑務所に送られる可能性よりも高いのです

日常生活における暴力は 勢いを増しているのです 何十億もの人々を 1日2ドルの地獄から救おうとする 努力は打ち砕かれているのです データは嘘をつかないからです 貧しい人に物やサービスを与えても 暴力による虐待を制止できなければ 長期的に成果が上がらず 失敗に終わるのです

開発途上国では基本的な 警察機構の崩壊への対処が 世界規模での貧困撲滅運動における 最優先課題となっていると考えることでしょう でも実際は違うのです 最近の国際支援を精査すると 日常的に蔓延する無法な暴力から 貧しい人を守るためには 支援額の1%も使われていないことが わかります

正直に言うと 貧しい人に向けられた暴力の話になると 時々奇妙な展開が見られるのです

水を提供する団体は 水を汲みに行く途中でレイプされた 痛ましい少女たちのことを語り 遠くまで水を汲みに行かなくて済むように 新しい井戸を作り それを祝っておしまいなのです 村にいる強姦犯にはお咎めなしです

もし大学のキャンパスにいる若い女性が 図書館に行く途中でレイプされたら 寮の近くに図書館を移したからといって お祝いなどしないでしょう でもなぜか貧しい人の場合 それで良いことになっています

本当のところは 経済開発や貧困緩和の 従来の専門家達には この問題の解決策が わからないのです それで どうなるのか? 専門家たちはこの話をしません

しかし もっと根本的な理由から 開発途上国の貧しい人を守る 法の執行が蔑ろにされています それは 開発途上国の豊かな人々には それが必要でないからです

私は少し前に 世界経済フォーラムに出席し 開発途上国で大規模ビジネスを展開する 企業の役員に聞きました 「皆さんはどうやって暴力から 社員や財産を 守られているのでしょうか?」 すると彼らは顔を見合わせ 声をそろえて答えました 「お金で買うのです」

実際 開発途上国では民間の警備会社は 今や警察よりも4倍 5倍 7倍の 規模なのです アフリカでは民間の警備会社で 働く人が一番多いのです お金持ちが警備にお金を払って ますます豊かになっていくのに対し 貧しい人は警備にお金を払えず 無防備な状態で 大地に放り出されているのです

これは大規模で恥ずべき非道な行いです このようなことがあってはならないのです

崩壊した警察制度は復旧出来ます 暴力はなくすことが出来ます 刑事司法制度のほとんど全てが 機能せず腐敗していますが 多大な努力と献身があれば 状況を一変出来ます

進むべき道はとても明確です

まず 貧困を撲滅する上で 暴力を止めさせることが 不可欠である としていくべきです 実際 世界の貧困について話し合う時 暴力の問題が含まれていないなら その話は真剣な議論ではないと見なされます

次に 本格的に資源を投入して 専門知識を提供することによって これらの国が 新しい司法制度を作り上げるのを 支援することを始めるべきです それは民間の警備に頼らず 誰もが安全に暮らせる制度です このような変革は実際可能であり 今日なされているものです

最近ゲイツ財団が フィリピン第2の都市で あるプロジェクトに資金提供しました そこでは 地元の支持者や 地元の法曹関係者が 腐敗した警察や機能していない裁判所を たった4年間で 抜本的に変えたのでした すると 貧しい子供に対する 商業的な性的暴力の件数が 79% 減りました

歴史から学ぶとき 最も不可解で許せないと感じるのは 思いやりに欠けた事態です なぜなら歴史とは 孫たちが 祖父母たちを裁きにかけるようなものだと思うからです

例えばこんな質問です 「おばあちゃん おじいちゃん どこにいたの?」 「ユダヤ人がナチスドイツから逃げて この国の港でも拒絶された時 おじいちゃんはどこにいたの?」 「おばあちゃん 日系アメリカ人が 強制収容所に連行された時 どこにいたの?」 「おじいちゃん アフリカ系アメリカ人が 選挙登録をしようとしただけで 殴られた時どこにいたの?」

同じように孫が質問してくるのです 「おばあちゃん おじいちゃん 世界の貧しい20億人が日常的に 暴力が蔓延する無法状態で 喘いでいた時 どこにいたの?」

私は思いやりから声を上げ 私たちの世代が 暴力を阻止するために 行動したんだよと言いたいのです

ありがとうございました

(拍手)

(クリス・アンダーソン) 非常に力強いお話でした 警察の訓練を強化するなど 実際の活動を少しお話ください どのくらい難しいのでしょうか?

(ゲイリー・ホーゲン) 最近 制度の崩壊と その結果の 相関関係が明らかになりつつあるのは 素晴らしいことです まずは実際 改革への政治的意思があります あとは資源への投資や専門知識の 移転が必要になります また実現を目指して政治的意思決定のために 奮闘しているところもあります いずれも見込みがあるものです なぜなら 世界中に例があり 国際司法ミッションで 奨励されているからです

(クリス・アンダーソン) ある国で警察組織を 抜本的に変えるのに どのくらい費用がかかりますか 私は部分的にしか分かりません

(ゲイリー・ホーゲン) 例えばグアテマラでは プロジェクトを 地元の警察や裁判所や検察と立ち上げ 司法の手続きが効果的に進むよう 再び訓練しました すると性犯罪者への起訴が 10倍以上に増えたのです このプロジェクトの費用は 僅か年間百万ドルです 刑事司法制度に関して 適切に訓練しモチベーションを高め 制度を機能させることで 不平等で民間の警備に頼る 未来が見えない国々― 特に中流階級の未来が見えないのですが そこに援助のお金は 大きな衝撃を与えます 転機となり 変化の入り口になると思います

(クリス・アンダーソン) そのために 連鎖を一つずつ 見ていくとすると 警察と他に誰がいますか?

(ゲイリー・ホーゲン) 法の執行に関してですね まず警察から始まります 司法の経路の最前線です 案件は警察から検察へ 検察から法廷へと進みます 暴力の被害者はその全行程を通じて 司法の公的機関に 支援されるべきです だから 全員で取組むべきです

過去にちょっとした 裁判所のみのトレーニングも試みられましたが 警察から提供される証拠が不十分でした また麻薬やテロが絡むと 警察もそれなりに介入しますが 貧しい普通の人には しっかりした法の執行というものは 無縁のものでした だから全員で取組もうとしています

実際 赤貧の村で暮らす人々でも 私たちと同じような 警察の関与を体験してもらうことができます 確かに完全ではない点を経験することもありますが 911に電話して 誰かが守ってくれると感じることは とても素晴らしいことです

(クリス・アンダーソン) ゲイリー 著書を通じて また本日この会場で 貧困の問題に世界を注目させたのは すばらしい貢献だったと思います

どうもありがとうございました

ゲイリー・ホーゲンでした

(拍手)

引用元:TED

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