2014年12月25日 科学・技術 タグ: 再生可能エネルギー, 原発問題, 時論公論
曲がり角に来た 再エネ買い取り制度/NHK・時論公論
2014年12月24日に放送された、NHK・時論公論「曲がり角に来た 再エネ買い取り制度」を紹介します。
(所要時間:約10分)
動画の内容 (全文書き起こし)
太陽光や風力発電などを増やすための再生可能エネルギーの買い取り制度が、曲がり角を迎えています。
環境に優しい国産のエネルギー、再生可能エネルギーを飛躍的に伸ばそうと2012年に始まったこの買い取り制度ですが、スタートから2年余りで、見直されることになりました。
問題点はどこにあったのか、今後、着実に再エネを増やすには、どうすべきか、考えたいと思います。
この「固定価格買い取り制度」は、太陽光や風力などで発電した電気を、一定の価格で10年、20年という長期にわたって、電力会社が買い取ることを義務付けているものです。
自宅の屋根に太陽光パネルを付け、余った電気を売ろうという個人も、再エネ発電に参入しようという企業も、採算を見こみやすいので、普及が進む、というのが目論見です。
ところが、電力会社への接続申し込みが急増したため、今年(※2014年)9月、九州電力など5つの電力会社が、受付を一時保留すると突然発表したのです。
買い取り希望の90%以上は太陽光発電です。
設備についての認定を国から得て、これから申し込もうと思っていた事業者などは当てが外れ、騒動になりました。
再生可能エネルギーが増えると、何が問題になるのでしょうか。
電力会社の説明はこうです。電気の需要が少ない春や秋、天気が良くて、太陽光発電がフル稼働すると、発電量は急増します。
仮に原発が再稼働していれば、供給が需要を上回ることにもなります。すると電圧が異常に上がり、発電所が緊急停止し、大規模な停電が起きる恐れがあるというのです。太陽光発電がここまで人気になったのは、それだけ優遇してきたからです。
住宅用の太陽光は1kwh当り37円で、10年間買い取ります。メガソーラーなどは32円で、20年間の買い取りです。大型風力などより有利な設定になっています。
一方、家庭が払う電気料金は1kwh当り20円前後ですから、売り値より高い電気を電力会社は買っているわけです。他の電源より割高になる分は電気料金に上乗せされ利用者が負担しています。
原発事故の後、脱原発に舵を切った民主党政権の時にできただけに、当初3年は再エネ事業者が儲けを出せるようにと、法律に定められている程、手厚い制度になっています。
その結果、メガソーラーの用地を見つけやすい地方で特に新規参入が増え、この5社が申し込みの受付をストップしました。
しかし、接続枠は本当にもうないのか?電力側の都合で渋っているのでは?といった疑問の声も出て、中立な専門家の会議が、各社の接続可能量を改めて算定しました。
その結果が、左側の棒グラフ 九州電力で800万kw余り、それに対し既に申し込みがあった量が右、九電では1300万kw余りです。5社とも接続可能量を超えているか、その寸前という状況で、枠はもう一杯なことが分かりました。
このため経済産業省は、制度の運用を見直すことにしました。
その方法が、発電側で出力を落とす「出力抑制」です。
※これまで500kw以上の大規模ソーラーだけを対象にしていたのを変え、全ての太陽光発電に出力抑制を求められるようにします。
※また、出力抑制は「年間30日まで」としていた枠を外し、無制限で求められるようにしてこの条件をのんだ事業者だけを受け入れます。
こう改めることにしたのです。みんなが少しずつ我慢することで、より多くの設備を活用できるようにしようというわけです。ただし、既に稼働しているものに、遡って新ルールが適用されることはありません。
さて出力抑制は、需要を超えているこの時間帯に出力を抑えて貰うものです。
今はこれを、発電側でスイッチを切って実施していますが、今後は、電力会社側から遠隔操作で、時間毎に調整できるシステムを開発することにしています。
更に、買い取り枠だけを取って工事は始めず、機材が安くなるのを待つ、といったグレーな手段もとれないよう規制します。こうしたルール変更が来月(※2015年1月)行われた後、電力会社の受付も再開されます。
出力抑制自体は、再エネの発電量が全体の20%にのぼるスペインでは普通に行われているといいます。
とはいっても、これはいわば「電気を捨てている」わけで、勿体ないことです。
そこで、将来的な対策になるのが、電力会社のエリア間をつなぐ「地域間連系線」という送電網の増強です。
人口が多く、需要が大きい東京電力、中部電力、関西電力の3社には、再生可能エネルギーの受け入れ余地はまだまだあります。
エリアを跨ぐ送電網を太くすれば、北海道・東北から東京電力へ、あるいは九州・四国から関西や中部へと電力を送って、有効に活かすことが出来ます。
課題は、この送電網を建設するコストです。
連系線は1本通すのに10年と、数千億円の費用がかかるとも言われています。
そのコストは、いずれ電気料金に跳ね返ってきます。とはいえ、例えばドイツの場合は国内も、隣国とも送電網が網の目のように繋がっているので、余った電力は他の足りないエリアに簡単に送れて、出力抑制など考える必要がないといいます。こうした例も参考にしたいところです。
もう一つの方法は、大規模な蓄電池の活用です。
太陽光や風力も蓄電池と組み合わせれば、出力を安定させることが出来ます。コスト面でも工事期間でも連系線の増強よりはやりやすいと見られています。
また、同じ再生可能エネルギーでも、優先順位をつけて導入を拡大していくことがルール化されました。
出力が安定している地熱や中小の水力発電を優先して受け入れ、これらは出力抑制の対象にはしません。
太陽光・風力などは出力抑制の対象ですが、同じ太陽光でも止める場合はまずメガソーラー等からで、それで足りない場合に住宅用も、という順番になります。
さて、買い取り制度発足からわずか2年余りで、受け入れ可能な枠が一杯になり、制度を見直さざるをえなくなったということは、これは政策の失敗だったのでしょうか。
必ずしもそうではないと思います。むしろ、制度が効きすぎた、と言えるでしょう。
「スピード感を持って大量に再エネを導入する」
このロケットスタートが目的ではあったのですが、実際はそれに投機的な動きも加わって一気に過熱し、このままでは天井に当たりそうになったというわけです。
そこでこれからは、増やしてはいくけれども、少しペースは落とすことになるのでしょう。
では、再生可能エネルギーはどこまで増やすのか、エネルギー基本計画は、電源構成比率で20%以上を目安にしています。
それをどういうペースで、いつまでに達成するのか、将来の望ましいエネルギーミックスを考える上でも、重要なポイントになります。
もう一つの課題は、再エネを増やすことに伴うコストです。
電気料金への上乗せ額は平均的な家庭で今、月225円程度、国全体で年に6500億円です。
これが将来、計画中の設備が全て事業化されると仮定しますと、家計の負担は月935円、総額は2兆7000億円にも膨らむと試算されています。
設備や機械は年々、安くなっているのですから、国民負担を抑えるため買い取り価格も引き下げていくのが本来の姿でしょう。
このように、まだまだ課題が多いわけで、再生可能エネルギーを根付かせる道を、国も事業者も、そして私たち利用者もこの先、しっかり考える必要がありそうです。
(関口博之 解説委員)引用元:時論公論