2013年12月8日 仕事・生活 タグ: 乳ガン, 乳房再建, 医療
いのちの乳房 ~乳がんによる「乳房再建手術」に挑んだ19人の女神たち~/FNSドキュメンタリー大賞
2012年6月21日に放送された、第21回・FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品「いのちの乳房 ~再建に挑んだ女神たち~」を紹介します。
(所要時間:約52分)
動画の内容
2010年暮れ、1冊の写真集が発売された。その名も「いのちの乳房」。
みな胸を張ってカメラの前に立っている。胸に、お腹に傷が残る人もいるが、彼女たちの笑顔はまぶしく、りりしい。この強さはどこから来るのだろうか。
写真集を企画したのは、東京で「国際ビジネス研究センター」という会社を経営する真水美佳さん(53)。48歳の時、両胸に乳がんが見つかり、右乳房を切除した。
温かく柔らかい乳房を手に入れるため、真水さんは、腹部の脂肪と血管を胸に移植する乳房再建の手術を受けた。
乳がんと宣告された時「どんな胸になるのか」分からず困った。温存といっても必ずしもきれいに乳房が残るとは限らない。情報を集めようとしたが、何が正しいのか分からず怖くて仕方がなかった。
「乳房再建という言葉すら知らない人は多いはず」と、患者たちのヌード写真集を作ろうと決めた。
自分を含め、モデルに立候補したのは19人。「誰かの役に立ちたい」その思いを写真家・荒木経惟が受け止めた。彼も前立腺がんの経験者だ。
真水さんは、初対面の取材者にも再建した乳房を見せてくれた。乳房再建の経験者は、再建しようか悩んでいる患者さんに乳房を見せている。見て触るのが何よりの教科書だ。
真水さんは主治医から、左右両方の乳房を同時に再建するAさん(38)のことを聞き、手術前日、お見舞いに行く。自分も不安だったからだ。
写真集を贈り、乳房を見せて励ました。その姿はまさに女神だった。
乳房再建は、「脂肪や皮膚・筋肉など体の組織を胸に移植する方法」と、「シリコン製の乳房インプラントを入れる方法」が主流だが、それぞれにメリット・デメリットがある。
手術時間が短く、傷も小さいインプラント術を選ぶ人が多いが、健康被害への心配から保険が効かない。
静岡県熱海市在住で、東京の医療専門学校「首都医校」の副校長を務める植田美津恵さん(53)は、ラジオ出演や講演と多忙なため、インプラントで再建したが100万円かかった。
急いで再建する理由もあった。
抗がん剤治療を始めた矢先、かけがえのない人が、末期の肺がんと診断された。髪が抜け互いに丸坊主だった。再建して励ましたい。しかし、間に合わなかった。がんで亡くなる彼をみとった今、再発という恐怖におびえながら、日々を生きている。
乳がんは遺伝性の強い病気のため、植田さんは娘2人に乳がん検診をプレゼントした。そして、看護師を目指す学生たちに再建した胸を触らせ、患者の気持ちが分かる看護師になるようアドバイスする。
女として、母として、教師として。乳がんの怖さを、命の尊さを伝えることが自分の役割だと思っている。
真水さんと植田さんは、写真集をきっかけに新たな友に出会った。神奈川県在住の板垣恵子さん(52)は、左の乳房を切除、インプラントで再建し、再婚も果たした。しかしその直後、乳がんが再発する。「再建なんかするから、がんを取り切れなかったのではないか」と後悔した。そして、再建で感じた医療の問題点を語った。
患者の顔も見ずに「乳房を切る」と告げる医師。子供3人を育ててきた大切な乳房を、物のように扱うことが許せなかった。それでも彼女は再度、乳房の修正手術に挑む。乳房がないままでは前に進めないからだ。
板垣さんは、手術の撮影も乳房の撮影も許してくれた。「多くの人に見てもらって、それでも再建したいと思うならすればいい。そうアドバイスすることが自分の役割」と話した。
乳房再建の経験者たちは、寄せられた寄付金で写真集を全国500の病院に贈り、再建が乳がんの標準治療になるよう願っている。地方に住む患者さんに情報を提供したいと考えている。
しかし「再建=美容」と考える医師が大半だ。
お金も時間もない乳がん患者たちは、インプラント術が保険適用になるよう署名集めも進めている。
年間約5万人が乳がんと診断されるいま、乳房再建の経験者たちは、授かった命、助かった命を決して無駄にすることなく、誰かの役に立ちたいと前に進む。この強さが、日本の医療を変えるかもしれない。
取材・構成 橋本真理子(テレビ静岡報道局報道部)コメント
大切な乳房。テレビでここまでお見せする番組があったでしょうか。
“マンモグラフィを受けましょう”と呼びかけても乳がんの検診率は上がりません。乳房を挟むその様子を、きちんと紹介してこなかった私たちマスコミにも責任はあると思います。
この壁を越えたいとずっと考えてきました。
乳房も手術シーンも多いこの番組。どの時間帯で放送するか、弊社でも議論されました。
乳がん患者さんの大半は”顔を映さないで”と言います。写真集のモデルさんも大半が“動画は嫌”と言いました。
でも、今回取材した方たちは“乳がんで亡くなる人が減り、検診に関心を持つ人が増えてくれるなら、顔も乳房も映していい”と言ってくれました。
これはものすごく勇気のいることです。
この思いをありのまま視聴者に届けることが、私の使命だと思いました。
乳がん患者の1%は男性です。大切な奥さんが、恋人が、娘が、母親が、乳がんになるかもしれません。男性も他人事と思わないでください。
この番組が堂々と放送され、堂々と見てもらえることが私の願いです。
制作:テレビ静岡
引用元:FNSドキュメンタリー大賞