2014年12月15日 国際・紛争, 政治・ニュース, 金融・経済 タグ: TED, アメリカ, ノーム・チョムスキー, 中国
世界で起きている本当のパワー・シフト/「世界最高の論客」と評される哲学者:ノーム・チョムスキー氏
アメリカの著名な哲学者であるノーム・チョムスキー氏が、「世界で起きている本当のパワー・シフトとは何か」を語っています。(2010年のものなので少々情報の鮮度としては低いですが、普遍的な内容を多分に含んでいます)
(所要時間:約16分)
動画の内容 (全文書き起こし)
私は国際政治におけるパワー・シフトについて話すよう頼まれました 最近よく議論されている話題です
世界の支配的な力としてのアメリカは 中国やインドに追い抜かれることになるのか それはいつかと取りざたされています
もしそうなれば 世界は17世紀以降のヨーロッパによる征服以前の姿に戻ることになります 科学的ではありませんが その雰囲気を表す象徴的な例があります
最近 あるマサチューセッツの州立大で歴史の先生と話したんですが 彼女はいつも期の始めに 世界で最も豊かな国はどこかと学生に聞いているそうです この数年いつも帰ってくる答えは 中国とインドだそうです 新聞の見出しを読んでいれば そう思うのでしょう ただ考えるべきことがあります
第一に富 あるいは 社会の健全性です
その尺度として 毎年発表される 人間開発指数があります 最新版によるとインドは134位でカンボジアの少し上 ラオスやタジキスタンの下です 何十年か前の水準です
中国は92位ですが ちょっと不確かで この閉鎖的な社会では貧しい地域へのアクセスが限られるているためです 実際はもっと低いかもしれません この順位はベリーズと同じでヨルダンの少し上 ドミニカ共和国やイランよりも下です
比較として 50年間アメリカから執拗に攻撃されてきたキューバは52位です 中国とインドよりも上で 中央アメリカやカリブ海沿岸諸国の中では最高 アルゼンチンやウルグアイのすぐ下です
インドと中国はまた極端に不平等で世界でも最も酷いものです だから10億以上の人々が それよりずっと悪い状況で暮らしているということです
債務はどうでしょう?
アメリカは中国の気まぐれに振り回されている というのが一般の考えです 一時的な中断を別にすると日本はずっとアメリカ政府の最大の債権保持者でした 良く理解されている様々な理由によって これがアメリカに不利な材料として使われることはありません
見通しはどうでしょう?
アメリカには ヨーロッパやアジア諸国に比べて大きな利点があります 例を挙げると 統一された比較的均質な国民 1つの言語 大きな国内市場 豊かな資源 好ましい気候 まだまだあります
軍事力はどうでしょう?
これについては議論はありません アメリカの軍事費は他の国全部を合わせたものに匹敵し 諜報も含めればもっと大きくなるでしょう 技術的には遙か先を行っています 数百の軍事基地を持つ 唯一の国で 国外に800もあり 暴力の行使のため実際にたびたび使われています この面では他を 圧倒しています 実際にはもっと本質的な問題があります
伝統的なものではあるにせよ 議論の枠組み全体がミスリーディングです グローバル・システムは 単に国益を追求する国家間の作用ではありません 国内社会に広がる力を見落とすことになります
しかし解説とか 国際関係論の専門家は通常そのような見方をしています 現実主義と呼ばれる支配的な観点では 国際システムを概ねそのように見ています
この観点に対しては いつも批判がありました たとえばアダム・スミスです
アダム・スミスは主にイギリスについて懸念していました 彼は言っていますがイギリスにおいては政府の政策の基本設計者は商人や製造業者であり 彼らは自分の利益が最大限に守られることに腐心し それで他の人々が損害を被ろうと気にかけません
割を食うのはイギリス国民であり さらに酷いのは 彼のいわゆる 「ヨーロッパ人の野蛮な不公正」の対象だった人々です
彼は特にイギリスとインドのことを指していましたが 彼の言葉は 今日でも ほとんどそのまま成り立ちます
今日のアメリカやヨーロッパでは この役割は 商人や製造業者から 多国籍企業や金融機関に移っています
この30年くらいにおける経済の金融化は劇的なものでした
1970年のアメリカに戻れば金融機関がGDPに占めていたのは 3%ほどです それが今や1/3にもなろうとしています
これに対応する事実として製造業の空洞化があり それが社会や政治上の決断 政治システムに大きな影響を及ぼしていて 概ねアダム・スミスの言葉通りになっています
私たちは実際に その劇的な例を目にしたばかりです
オバマが大統領に就任しましたが 経済の大きな部分を占める金融業界からの支持に大きく助けられてのことです 金融業界はマケインよりオバマを好み それがオバマの基盤になりました
そして これには見返りがありました 金融システムが破綻した時 金融機関に巨額の救済措置が取られました あまり議論されていませんが これはとても重要な贈り物だったのです
ゴールドマンサックスは政治経済システムにおける勝ち犬と目されています 不動産担保証券や さらに複雑な金融商品を無自覚の買い手に売って大もうけしました
しかしゴールドマンサックスは 自分のしていることを分かっていました 破綻する可能性を分かっていたのです それで失敗側に賭けることで会社の保険としたのです
そのクレジット・デフォルト・ スワップというのを 世界最大の保険会社であるAIGを通じて行いました そして金融システムが破綻した時 AIGも道連れにすることになりました
しかしゴールドマンサックスの人たちは 権力を操る者の間で具合良い位置を占めていて 巨額の救済措置を取り付けただけでなく 破綻した債権によるAIGの倒産を防ぐため 納税者にツケを払わせ それによってゴールドマンサックスも破滅を逃れたのです
今やゴールドマンサックスの CEO ロイド・ブランクファインは アインシュタイン以来の天才だともてはやされています ゴールドマンサックスは記録的な利益を上げ 巨額のボーナスを出しています
金融危機の 他の担い手達もまた かつてなく大きく強力になっています
大衆は 詳細は分からないにせよ 怒っています 危機を起こした張本人たちが潤う一方で大衆は苦しんでいます
失業率は 公式には10%ですが 実際はもっと高く 製造業においては大恐慌時の水準になっています そしてその仕事が戻ってくることもありません 製造機能自体を海外に移転してしまったからです
実のところ この30年で大部分の人は実質賃金が停滞ないしは低下し 富は一部の人のポケットへと流れ 不平等がアメリカ史上かつてなく大きくなっています
そのため怒りが膨らんでおり オバマ大統領もとうとう何とかしなければならなくなりました そして2ヶ月ほど前に手を付けました まずは言葉の上での方向転換があり 悪い銀行家の話をするようになりました そして金融業界が好まないような政策をちらつかせました
しかしオバマは金融業界の代弁を期待されていたのです 彼らにポストにつけてもらったわけですから
そして基本設計者たる彼らは速やかに指示を送りました 資金を対立政党に移すと公に宣言したのです そして重要なマサチューセッツの選挙で共和党に資金を投入し 共和党はあらゆる法案を止められる力を得ました これ自体面白い話ではあります
オバマはそのメッセージを受け止めました 数日後にメディアに向けて 銀行家は 彼の言葉ですが 「素晴らしい人々だ」と言ったのです 2大企業のJ.P.モルガンとゴールドマンサックスの会長を特に取り上げて讃えました
そして経済界に対して請け合ったのです 「私は 多くのアメリカ人と同様 他人の成功や富をやっかんだりはしない」と。人々が怒っている金融業界の巨額のボーナスや利益のことを言っています 「これは自由市場経済の一部なのだから」と続けました
国家資本主義者の教義による自由市場の解釈ほどには不正確ではありません これはスミスの言葉が現実に行われている露骨なケースです
アダム・スミスの重要な指摘を胸に グローバル・システムの別な点に目を向けましょう いったい何が起きているのか
世界で起きている本当のパワー・シフトは 労働者から多国籍資本へ というものです
中国はここで 大きな役割を担っています 基本的には地域的生産システムにおける組立工場です
日本 台湾 その他アジア諸国は ハイテク部品やコンポーネントを中国に輸出し 中国はそれを組み立てて輸出しています 極端に安く抑圧された労働力と土地によってです
アメリカの中国に対する貿易赤字には 大きな懸念が持たれています 実際それは巨額で 増加しています しかし あまり注目されていない相殺的な要素があって 日本や他のアジア諸国への赤字は この新しい地域的生産システムの勃興により急速に減っているのです
アメリカの製造業者も このやり方に倣っています 部品やコンポーネントを供給して 中国で組み立てては アメリカに輸出しています
金融機関や 巨大小売店 製造業を所有し経営する者のためです
これらのセクターは 権力と深く結びついています この絶妙な仕組みもまた 良く理解されている話です
影響力あるスローン財団の ラルフ・ゴモリーが何年か前に議会で証言し こう説明しています
「このグローバリゼーションの新時代においては 企業と国家の利益は昔と比べて乖離するようになっています アメリカのグローバル企業にとって良いことが アメリカ国民にとっては必ずしも良いことではなくなっているのです」
これをはっきり示す例として コンピュータ業界の頂点にあるIBMを見てみましょう IBMにはアメリカ国内と海外子会社を合わせ40万の従業員がいますが 今やアメリカ国内の従業員数は30%にまで下がっています 国内社員の多くは 仕事を続けたければ海外に行くよう言われています
これはIBMのオーナーや重役には結構なことですが 国にとっては アダム・スミスの言うように ありがたくない状況です
IBMがコンピュータ業界の巨人になれたのも アメリカの納税者による IT革命やハイテク経済への大きな投資があってのことだというのを言っておくべきでしょう
しかしビジネスは慈善活動ではありません 企業は利益とマーケット・シェアの最大化に務めるものです 実際 それは経営層にとって法的義務でもあります それが国にとって良いことにならないのは 残念なことです
中国は世界の組立工場になりました 中国の労働者は 他の国の労働者同様に苦しい状況にあります 富と権力を集中し 世界中の労働者を競わせるようデザインされたこのシステムにおいて それは予期されたことです
労働者の取り分や国の収入は世界中で低下していますが 中国においては特に酷く 他のどこよりもそうです それは 世界でも最も不平等で 反対を封じるためには暴力も厭わないこの社会に不安定さをもたらす要素となっています
こういったことについて言うことは まだたくさんありますが 複雑な現実の中の際立った点をいくつかまとめて終わりにしましょう
世界では確かに重要なパワー・シフトが起きています 教義的な枠組みを逃れた視点を持てば それが何か見えてくるでしょう
世界中で 一般大衆から世界的権力システムの基本設計者へ というシフトがあり これは理性的な人なら誰でも予期できることでしょう
今のような世の中の アメリカやヨーロッパ ということですが大規模な脱政治化や民主主義機能の弱体化を見れば特にそうです
ここからどう進むかは 大衆がどこまで我慢するか次第でしょう
引用元:TED




震源地はアメリカと中国/NHKスペシャル「マネー氾濫(はんらん) ~世界経済に異変~」
「世界最高の論客」と評されるノーム・チョムスキー氏が、自主避難を余儀なくされた福島の親子らと面会/被災者の不安に寄り添わない日本政府の対応を厳しく批判
NHK・さかのぼり日本史 <昭和 “外交敗戦”の教訓> 第1回 「挫折した日米交渉」
NHK・さかのぼり日本史 <昭和 “外交敗戦”の教訓> 第4回「崩れゆく国際協調」
国防は軍人の専有物にあらず/NHK・その時歴史が動いた「日米攻防90日 国際軍縮を実現せよ! ~ワシントン会議・全権 加藤友三郎の挑戦~」
「何でもお金で買える社会」にしてはいけない2つの理由/マイケル・サンデル
アメリカ政治の中心に存在する「腐敗」は連邦議会議員の資金調達がごく一部の国民に依存していることに起因している/ローレンス・レッシグ
NHK・さかのぼり日本史 <昭和 “外交敗戦”の教訓> 第3回 「国際連盟脱退 宣伝外交の敗北」
アメリカでは今、「コストが高すぎること」と「使用済み核燃料の行き場がないこと」が原因で廃炉になる原発が出始めている/NHK・ワールドWaveトゥナイト
なぜ世界から貧困は消えないのか?/BS世界のドキュメンタリー「パーク・アベニュー 格差社会アメリカ」
超常現象 第2集 「秘められた未知のパワー 超能力」
「財政の崖」が解決しない本当の理由/アダム・デビッドソン
NHKスペシャル「私たちは核兵器を作った」
アメリカの古い原発 「採算合わず運転停止」 すべての廃炉作業が終了するのは「2075年」/NHKニュース
根底にあるのは「原発は危険だ」という哲学/報道ステーション「厳格なアメリカの原発安全基準」
監視社会への道 ~愛国者法とアメリカ~/NHK・ドキュメンタリーWAVE
凄い!これぞまさに教育革命!最高の大学・最高の講師陣・最高のクオリティの授業を、世界中のすべての人々に無償で提供する試み/ダフニー・コラー
NHKスペシャル <シリーズ 激動の世界> 第3回 「揺れる“超大国” ~アメリカはどこへ~ 」
インドと中国がアメリカを追い越す、まさにその日はいつか?/統計学の達人 Hans Rosling(ハンス・ロスリング)
正義を実現させるためには、正義の行動で闘わねばならない/NHK・その時歴史が動いた 「I Have a Dream ~キング牧師のアメリカ市民革命~」
中国の工場の作業状況は過酷で、低価格を求める我々の欲望がその原因であるという「常識」は間違いであり、うぬぼれもよいところです。/レスリー・T. チャン
米国に物申す同盟国 カナダから何を学ぶか/孫崎享(まごさきうける)氏
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若い人たちに一言お詫びを申し上げたいと思います。/小出裕章(こいでひろあき)氏 「未来を担う子どもたちへ」
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